あなたは変な子だった。いつも教室でひとり、本を読んでいた。
友だちなんていなかった。暗くて、空気が読めなくて。「目付きが悪い」と眉をしかめられ、「冗談が通じない」とバカにされ、「愛想が悪くて気持ち悪い」と悪口を言われていた。
朝と放課後の図書館だけがあなたの居場所のようだった。
「本当は私、どこかの国のお姫様で、いつか立派な車でお迎えが来るの」
よくそう言って笑っていた。

家でも学校でもずっと「孤独」だった、15才の地獄のような日々

あなたは次第に、いじめの標的にされ始めた。靴に詰められたゴミにも、投げつけられる消しゴムのカスにも、聞こえよがしに言われる外見を嘲る声にも、あなたは顔色ひとつ変えなかった。
相変わらず厚い本をたくさん読み、静かに授業を受け、悪口など聞こえていないかのように過ごしていた。
「平気なの?」と聞かれても、「相手にするだけ時間の無駄でしょう」と肩をすくめるばかりで、休むこともなく淡々と毎日を過ごしていた。
あなたの父親はちょうどその頃、借金を作って逃げてしまい、毎日ヒステリックに喚き、叫び、泣く母親に怯えていた。
「家でも学校でもずっと孤独なんだよね」とよく呟いていたっけ。

あるとき、「こんなことばかりずっと続いてくのかな。私の人生、地獄だね」と、あなたは笑った。そのままおもむろにキッチンで包丁を手に取ったあなたは、首にその刃を突き立てて、それでも、やっぱり、どうしても突き刺すことはできなくて、その場に崩れ落ちて泣いていたね。
「もう疲れてしまった。このまま生きていてもつらいままだ。希望なんてない」と繰り返し言っていたよね。
あなた。15才の、孤独でつらいことばかりだったあなた。10年前の、私。
もし今あなたに会えたなら、あのときのあなたに会えたなら。「希望なんてない」と言っていたあの日のその先を、ぜんぶ教えてあげましょう。

地獄のような日々から10年経った「今の私の生活」

あなたは結局、どの国のお姫様でもありませんでした。立派な車で迎えに来て貰えたことは1度もありません。
残念だけれど、あの頃より苦しいことも、つらいことも、乗り越えられなかった困難も、たくさんありました。きっと、これからもあるでしょう。

ただ、あなたには今、大好きな友達が何人もいます。母親とは、時間がたくさんかかりましたが、今ではお互いを大切にできる関係です。
大学、バイト先、就職先、様々な場所で素敵な人と出会い、関係を築きました。みんな、あなたが困っているとすぐに駆けつけてくれる、温かな人たちです。

収入はさして多くはないけれど、日々働き、自分のことを自分でできる程度にはなりました。古いけれど落ち着ける自宅には1匹の美しい魚がいて、あなたを見つけると青いヒレを舞わせて寄ってきます。
恋人もいます。一緒に住んでいて、結婚も決まっています。あなたの好きな同級生の彼ではないけれど、とても素敵な人です。
あの頃本で読んで信じ込んでいた「結婚は人生で2番目に好きな人とするもの」というのは、嘘だったなと思っています。

孤独だった15才の私へ。まっすぐ生きてくれてありがとう

あの頃の、小さな私へ。
現実はたしかに、複雑で面倒も多く、苦しい場面もあるけれど。楽しいばかりではいられないけれど。

あなたはもう孤独ではありません。つらいとき、平気だと嘘をつく必要もありません。
信じられなくとも、事実として未来はこんなにも明るい。あなたがあの日々を、踏ん張ってくれていたから。
挫けず、歪まず、まっすぐに生きてくれたあなた。ありがとう。