もしあなたに会えたら、何を話そうか。
コロナが流行していること。就活に奮闘していること。来年、大学を卒業すること。
話したいことは山ほどある。
でも、もしあなたが生きていたら、私はあなたが一番楽しみにしていた私の成人式について話したい。

祖母が成人式まであと何年、と口ずさむたびに、心の中が温かくなった

祖母が亡くなって8年が経った。
月日というのはあっという間に過ぎていき、いつの間にか二十歳を過ぎていた。
成人式を迎えたのは去年の1月だった。
祖母は生前、「すももの成人式を見たいなぁ。きっと綺麗な振袖を着るんだろうね……」とよく呟いていた。
「あと10年経てば成人だね」
「あと9年だ……」
「あと8年……」
毎年のように「楽しみだ」と口癖のように言ってくれた。
まだ子どもだった私は、何でそんなに楽しみにしているんだろうと疑問に思っていた。
でも祖母があと何年、と口ずさむたびに、私は心の中が温かくなっていくような気がした。

「成人式が終わった後、美味しいご飯を食べに行きたいね。神社に参拝に行かないと……」
若い子が恋人に会いに行くのを楽しみしているようにそわそわしている祖母を見ると、見ているこっちも嬉しくなった。
「1月だときっとまだお花はあまり咲いていないね……。梅もまだ咲かないかしら……」
「振袖は一等綺麗なやつにしましょうね……。成人式の後、真っ先に会いにに来てね」

悲しませまいと両親に隠された祖母の病状。最後の会話は「約束よ」

「約束よ」
この言葉が、祖母との最後の会話になってしまった。
祖母はガンだった。気づいた時には他の臓器に転移していて、手の施しようがなかった。
私は祖母が亡くなるまで、ガンだったことを伝えられていなかった。
「言ったらきっと悲しむだろうと思って……」
両親は涙目になりながら言った。
私の気持ちを考えて、祖母の病状のことを黙っていたのだ。
私を悲しませたくないと思ってしたことだった。

でも、それってあんまりじゃないか?
私は祖母が明日も明後日も、明々後日も生きていると思っていたのに。
また会えると思っていたのに。
次に会ったときは、もう動かない姿になって布団に横たわっていた。

これってあんまりじゃないか?
もし先が長くないと知っていたなら、毎日会いに行ったよ。
話したいことも沢山あったよ。行きたいところも沢山あった。
まだ一緒にいられると思っていた。死んでほしくなかった。遠くに行ってほしくなかったのに。
その願いも空しく、ただ泣くことしかできなかった。

「成人式」という言葉を聞くたびに、祖母のことを思い出してしまう

祖母が亡くなった後、祖母のことはあまり考えないようにしていた。
思い出してしまったら、きっと悲しくなるから。心が痛くなるから。
思い出さない方が都合がいい。
でも「成人式」という言葉を聞くたびに、祖母のことを思い出してしまうのだ。
私の成人式が見たいと毎年のように言っていた祖母の姿を。

結局、私は成人式に出席しなかった。
行くことができなかったのだ。コロナウイルスの影響だから仕方がないことだけれど。
でも両親が「せめて振袖姿だけでも撮りたい」と言って、4月に振袖を着た。
振袖の色は白。祖母が好きだった百合の花の色だ。
私が振袖を着た日は晴天だった。空の上から私の姿は見えただろうか?

一緒に成人式には行けなかったけれど、空の上から見守っていてほしい。
精一杯、生きていくから。