小学生の頃、仲の良かったえりちゃんへ。
私はまた絵を描き始めたよ。えりちゃんは、小説書いてる?もし再会できたら、2人で本をつくろうね。
転校生のえりちゃんは、自分の意見をはっきり言えるかっこいい子だった
小学4年生の時に、転校生がやってきた。小柄で、落ち着いた雰囲気の女の子。休み時間はよく読書をしていた。私も小学2年生の頃に転校してきたこともあり、すぐに仲良くなった。
彼女はちょっと不思議な子だった。子どもながらに自分の世界がちゃんとあって、他の同級生とは少し異質だった。そこが面白かった。
当時、四角い箱型のペンケースを持ってる子が多い中で、彼女はくるくると丸めるロールペンケースを使っていた。私が今まで知っているペンケースとは、全く違う形状で驚いたことをよく覚えている。
同級生から「そのペンケース、変だよ」と言われると、「私にはこれが素敵なの」と彼女は返した。自分の意見をはっきり持ち、言い返す姿を見たとき、かっこいい女の子だなと思った。
2人で、いつかハリーポッターのような本を作ろうと約束した
深くは意識していなかったが、子どもの間でも確実に同調圧力は存在していた。
私は、自分が好きだと感じたものでも、他人から変だと言われると、好きではなく振舞ってしまうことがあった。
好きなものを、好きと言えることがすごい。
少数派は多数派から「変だ」というレッテルを貼られがちである。
私はそんな「変な」彼女を魅力的に感じた。
彼女はハリーポッターが好きだった。「いつかハリーポッターのような本を書きたいんだ」と彼女は言った。「セキヤは絵が上手だから、本の挿絵を描いてほしい」「2人で本ができたら素敵だよね」と。
ハリーポッターの本を手に取ったことがある人はわかるだろうが、当時発行されていたハリーポッターの本の挿絵は、子ども受けしない、ちょっと独特なタッチの絵だった。もちろん大人になった今ではその絵を素敵だと感じるが、小学生の私は好きではなかった。
彼女は違った。その挿絵を素敵だと思い、私にもこういう絵を描いてほしいと言った。
奇妙な挿絵を描くのは正直嫌だったが、一緒に本をつくることはとても魅力的な誘いだった。
大人になったら彼女の絵のセンスも変わるかもしれないな、と思い返事をした。
「そうだね、2人ですごいのつくろうね」
いつか再会できた時の為に絵の練習をしておこう、そして、今度は私から誘おう
彼女は父親の転勤により、転校してしまった。それから連絡はとっていない。
私は普通に進学し、就職した。絵を描く仕事はしていない。絵を描くこともしていなかった。
ふとした瞬間に、彼女とのあの約束が頭をよぎることがある。
会えるかわからないけど、絵の練習はしておいた方がいいかな。そう思い、最近スケッチブックを購入した。
彼女はいま、何の仕事をしているのだろうか。
落ち着きがあり集中力もあったから、研究者とか向いてそうだな。ピアノが弾けたから、音楽関係に進んでいるかもしれない。
まあ、元気でいてくれれば、何しててもいいけどね。
彼女と再会できたら、私との約束を覚えてるか聞きたい。覚えてなかったら、私から誘おうと思う。
「えりちゃんに、ハリーポッターみたいな本を書いてほしい。私はその挿絵を描きたいの。2人で本ができたら素敵だよね」