ハートのスタンプ。彼がいなければ生きていけないと信じていた

さらに4人は詰め込める箱を贅沢には使わず、2人は中央に狭く陣取った。背中からの彼のハグを享受することが一番の幸せだと、世界中に知らしめてやりたいような、でも内緒にしたいような、矛盾した感情が照れ笑いとなって頬を染めている。

服装から推測するに、ちょうど今と同じ、3月くらいに撮ったものだろう。雪国新潟とはいえ、ゲームセンターの中はもう暖かくなってきているだろうに、まるで抱き合わないと凍えてしまうと言わんばかりに頬を寄せている。現に当時の私は、今後の人生に彼がいなければ自分は生きてはいけないと信じ込んでいた。

この2ヶ月後、彼は、私をもう好きでいられなくなったと言った。
別れたくないと、私は必死にすがった。ずっと一緒と言ったのに。forever loveなんて恥ずかしいハートマークのスタンプ、押したばっかりじゃん。私は絶対にずっと好きだよ、別れたくない。

2022年3月、久々に帰省をし、本棚の奥で高校2年生の時の彼氏とのプリクラを見つけた。画像の粗さに11年の時の流れを感じた。私は来月29歳になる。
forever love、今では絶対に使わない言葉だ。その横で笑っている、当時の彼と私。こんなに無垢で純粋な表情、今できるだろうか？

少しずつ学んでいった真実は、全ては変わり続けるということ

私の知りたくなかった『あのこと』は、永遠など存在しないということだ。

これは、彼との失恋だけでなく、あらゆる経験や場面で少しずつ学び取り、確信に変わっていった紛れもない真実だった。人は、街は、世界は、変わり続ける。大きなことも、ほんの些細なことも。

大好きだったあのバンドは解散するし、過去の過ちから学び平和になったと思っていた世界は全然違ったし、ここ数年でどんなに眠くてもスキンケアに精を出すようになったし（そうしないと、翌朝の肌のくすみが大変なことになる）、大切な人が何人も死んだ。元彼と疎遠になった友達の数だけが増えていく。そうして私は、「ずっと」という永遠を想起させるワードを使えなくなっていった。

知りたくなかったと思う。これを知らなければ、このプリクラに写る自分のように、無垢で無知が故の純粋さをたたえたまま「ずっと」笑っていけただろう。
今も決して不幸ではない。思い切り笑いたくなったり、幸せを抱きしめたくなったりする時だってある。
ただ、そういう時に必ず、永遠なんてないことが頭をよぎり、未来への不安を感じざるを得ない。夢、恋愛、結婚、仕事、家族…全て、永遠なんてないのだと、言い切れてしまう自分がいる。

確実に、プリクラで満面の笑みを浮かべる女子高生の自分より、生きるのは楽ではない。何も知りたくない、考えることをやめたいと思う、暗闇のような1日が月に何度もあるような自分自身を、私は決して明るい性格だとは言えない。

永遠は存在しないけれど、1秒を積み重ねた未来を見たいと思う

ただ、それでも私は未来を見たいと思う。永遠など存在しない。しかし、生きていれば、必ず次の1秒が私たちには訪れる。隣にいる人の笑顔をもっと見ていたいと思ったり、SNSで目新しいスイーツを見つけて今度食べてみようと思ったり、そんな1秒を重ねていくことならできる。永遠がないと知っているからこそ、この1秒を大切に育てていこうと思えるのだ。永遠を信じきることは、愛する人に対する怠慢につながる。

29歳の私は、こんな風に無条件のforever loveなんてないことを知りながら、愛おしい1秒を重ねた先にもしかしたら永遠に近いものがあるのかもなんて考えている。まあまあ幸せに暮らしているよとプリクラに写る無知な私に教えてあげたい。

あなたが思い描いていた未来とは、正直全然違う。離したくなかったのに、手からこぼれ落ちていった大好きなものは数えきれない。ただ、悲しい変化のなかで、思いがけずに掴んだものも沢山あった。
17歳のあなたの全てだった大好きな人は、残念ながらもう恋人ではないし、別れた後、よりを戻すこともなかった。しかし、彼は今でもとても良い友人として時折隣にいてくれる。上京し、戦う日々の中で偶然再会してからは、月一で渋谷に集合するようになった。
夢を持つお互いを、付き合っていた当時の恥ずかしい記憶から生成するブラックジョークも混ぜながら鼓舞したり、時に強引に手を差し伸べたりしながら応援する。
今も彼は、私のとても大切な人だ。恋人関係を脱し、永遠を無心することがなくなった今だからこそ築くことができた関係性だと思う。欠けがえのないものだからこそ、自分で守るのだ。

ハートマークの横のあなたに負けないくらいに、幸せになるよ。永遠なんてないけれど、自分で作っていく1秒1秒を重ねて。