先輩には、どこか他人を簡単には寄せ付けない雰囲気があった

ローズピンク、マゼンダ、サーモン、コーラル、ベビーピンク……この世はたくさんのピンクで溢れている。
ふんわりと優しかったり、きりっと魅力的だったり、様々な顔を見せるこの色がずっと大好きだ。そんな私が高校で出会ったのは、ピンクをまったく身につけない先輩だった。

彼女はすらりと身長が高く、少し冷たい印象をもつくくらい、顔が整っていた。「可愛らしい」というより「クールな美人」という言葉がぴったりな彼女は、基本的に青や緑や黒ばかりを身につけていた。
それが余計に涼やかな印象を増していたけれど、選ぶ服やアクセサリーの色だけではなく、彼女にはどこか他人を簡単には寄せ付けない雰囲気があった。彼女はかっこよかったが、それは女の子扱いを拒絶する武装にも感じた。

「いつも一緒にいる先輩、美人だけどちょっと怖くない?」
「あの人、あんまり笑わないよね。性格きついの?」
友人に聞かれる度に「全然そんなことないよ」と否定しつつ、上手く説明できないことをもどかしく思った。

彼女は高校で出会ってから今までの10年、ずっと大親友だ。家族よりも話をして、恋人よりも長い時間を過ごした相手なので、凄まじくおっちょこちょいだったり、くだらないことで大笑いしたりすることを知っている。まったくクールではない。
びっくりするくらい乙女な考え方をするし、とにかく純粋で、人を見下したり妬んだりせず困っている人に迷わず手を貸す。だから、私からしたら彼女のイメージは柔らかなオレンジや薄めのピンクに近い。
澄んだ青やはっきりとした黒は、彼女の端正な顔立ちによく合っていたけれど、優しくてあたたかな色合いも彼女らしいのに…なんて思っていた。

プレゼントで、似合わない色なんてないことを証明したかった

「ピンクは好きじゃないの?」
何の話題だったかは覚えていないが、彼女にそう聞いたことがある。
「可愛い色は、似合わないから」
そう言った彼女に「ふうん」と返して終わった会話を思い出しながら、私は彼女への次のプレゼントに迷わず薄いピンク色のピアスを選んだ。私の好きな色を身につけた彼女が見たかったし、似合わない色なんてないことを証明したかったからだ。
「え?ピンク……!?」
プレゼントを開けた彼女が、一瞬手を止めた。
「しまった、嫌だったかもしれない」と焦ったのも束の間、ちょっと照れながらそのピアスをつけた彼女に「似合う!」とつい大きめの声が出てしまった。
クールさと甘さがバランスよく引き立て合っていて、お世辞ではなく本当によく似合っていた。えへへ、と笑う彼女に「プレゼントって、あげる方が楽しいな」と思ったことを、今でも覚えている。

ピンクのピアスや私自身が、ほんの少しでも支えになっていたら

あれから年月が経ち、彼女は相変わらず寒色のものをよく選びつつも、レースの服や赤系統のワンピースも身につけるようになった。
それに加えて、彼女の内面を理解した人が次第に増え、彼女はたくさん笑うようになった。
あのころと比べると、壁がなくなって雰囲気もかなり和らいだように思う。寒色のかっこいいスタイルも、レースやシフォンの綺麗なスタイルも、いろんな彼女を見ることができてとても楽しい。

ピンクが似合わないと思い込んでいたあの日の彼女は、ピンクが大好きでそればかり身につける女の子にはならなかった。
けれど、何かに迷った彼女の選択肢に「可愛らしさ」があがるくらいには、彼女とピンクの距離が縮んだ気がしていて、私はそれが1番嬉しい。
彼女の明るい変化は彼女自身の頑張りの結果だけれど、あのときのピンクのピアスや私自身が、ほんの少しでもその支えになっていたのならよいな、と思う。

正直なところ、彼女の友人が増えれば増えるほど、彼女の素敵な内面は私だけが知っていればいいのに……なんて思ってしまうこともあるけれど、これは内緒で。