女優さんの身長や体重を調べて、近づけるように努力した

人は言う。私の体をナイスバディと。ダイナマイトボディと。メリハリボディと。それらの言葉は、私にとってとても嬉しい言葉である。

何を隠そう、幼い頃からそのような体型になりたくてこっそり努力をし続けてきた。結果、出るとこは出て、締まるところは締まった体型になった。
特に胸とおしりの肉は努力の結晶だ。胸はアンダー65のIカップ。おしりもラテン系の女性に負けず劣らずの迫力に育った。また、同世代の女性の中ではなかなかの長身のため、我ながら立っているだけで迫力もあると思う。

幼い頃に学校で見たのをきっかけに、洋画、とりわけアメコミが好きになった。そして、そこに出てくるキャラクターのような体型になりたかった。
アメコミの実写版が決まった時、自分の好きなヒロインを演じる女優さんの身長や体重を調べて、近づけるように努力した。
チーズや牛乳を買って身長をのばし、脂肪を育てた。筋トレや有酸素運動も欠かさない。ヒロインたるもの、立ち振る舞いや所作にも気を使った。

丹精込めて育てた自分の肉体。しかし、思いっきり捨てたくなってしまった時がある。それは、かつて好きだった男性が、とあるアイドルのファンであることを知った時だ。
そのアイドルはとても華奢である。かなりの痩せ型で小顔。成人した女性だが、あまりの細さにまるで彼女が未成年であるかのような感覚に陥る。
二の腕や太ももがよくいえばハリがあり、悪くいえばムチムチしている私とは違い、いかにも折れそうなほっそい体型である。きっと私と並んだら一回り二回りも小柄だろう。

疑問がわいた。削ぎ落ちていったのは体重の他に自尊心だった

私は彼がそのアイドルを好きだと知った時、私は彼から「太り過ぎ」「脂肪まみれ」「でかい身体」と思われているんじゃないかと思い、勝手に怖くなった。そこで私は、少しでも彼に可愛いと思ってもらえるようにダイエットをすることに決めた。
食事制限、サウナ、運動。努力は実り、みるみるうちに体重が落ちていった。しかし、削ぎ落ちていったのは体重の他に自尊心だった。
飲食店に入り、ダイエットのために敢えて自分の食べたくない食事を選ぶ時、サウナで意識が朦朧としている時、「私の体って彼のための体なの?」「私がなりたい私って何なの?」と疑問がわいてきた。

私は幼い頃に、画面の中でかっこよく戦うアメコミのヒロインを夢見て、そうなりたくて胸もおしりも長年育ててきた。理不尽な人生を生きていく上で、ヒロインの芯の強さや心の美しさもとても参考になった。
私が本当になりたいのは、彼の好むような華奢で儚くか弱い少女ではなく、豊満な体型をスーツに包んで、ダイナミックに戦う戦士ではないか。

ジムのシャワー室の鏡で、自分自身を見る。彼の好きなアイドルのように細い自分を想像した。
絶望的に似合わない。カリカリに痩せた細身の体型は、私のこれまでの夢や努力を無駄にしてしまう。胸やおしりのお肉、そして華麗で強い女性の体型を捨てたところで、そう簡単には戻らない。
危うく汗や涙と共に自分のアイデンティティも捨ててしまうところだった。

冷めていく過程で、安易に自身の体型を捨てなくてよかったと思った

また、彼がそのアイドルに惹かれる理由は、体型の他に容姿、年齢、パフォーマンス、バラエティでの立ち振る舞い、ファンサービスなどきっと様々であろう。仮に私が痩せて彼にアプローチしてきたところで、無駄骨になる可能性も高い。
それならば先行き不透明な彼の好みに合わせるより、長年の付き合いであるアメコミとヒロインと胸とおしりとの付き合いを続けた方が、自分らしく生きられてきっと幸せだ。私は彼の好みではなく、自分らしい体型を選んで生きることを決めた。

しばらくして、彼と関わるうちに恋心は徐々に冷めていった。
冷めていく経過の中で、改めて安易に自身の体型を捨てなくて良かったと思った。そして結局、彼の好みの女性像は最後までわからなかった。でも、この完璧なる一人相撲のお陰で、自分はこの体型が無敵のヒロインでいられることがわかった。

彼よ、アイデンティティ構築のための一人相撲に付き合ってくれてありがとう。私はこれからも沢山食べて沢山動いて自慢のわがままボディをキープしていくつもりだ。
そして、この身体でこの世の中を、一人のヒロインとして生き抜いていく。