うまくいっているわけではないが、後悔はしていない。
私は2ヶ月前、転職することをやめた。
転職予定先からは内定を頂いていたが、、辞退した。
辞退の正直な理由は、現在の仕事に未練を感じてしまったから。

転職をしようとした理由は体力不足。あまりに激務だった

それでは未練を感じる仕事を、なぜ辞めようとしたのか。
思うだけでなく実行に移し、なぜ退職一歩手前まで行ったのか。
理由としては、体力不足でどうしてもできないことがあった。
頑張りたくても、もうできないな、と思ったためである。

朝早く夜遅い。
自分で車を運転して、都内から地方各所の現場に出張する。
朝は現場開始時間に間に合うよう到着する必要があるため、早めに家を出る。
夜は帰りの時間帯に重なり、渋滞に巻き込まれたりしながら、汗と土埃でぐったりしつつ現場から帰る。帰社・帰宅後に資料・報告書をを作成することもある。
現場では電波の届かない山奥で藪をかき分けての現地調査、一日中コンクリートの壁のひび割れの写真を撮り、調書の作成、数ヶ月僻地に滞在し工事の現場管理をすることもある。

月の半分は日帰り単位での同じことの繰り返しで成り立つ仕事は少ない。
一年の予定は取れる仕事に左右される。
明日どこにいる予定なんだっけ、と寝る前に確認し、毎日大体違う時間のアラームをセットする。
私は何時間、意識を保っていられるのだろうか、無事故で生きて帰れるといいなと思う日も多い。
直行直帰できる時や、テレワークできる時もあると言えばあるが、できるようであればラッキー、くらいだ。

厳しい労働環境に悲鳴をあげる身体。経験は積めたけど

就職前から、業界の体質として長時間労働が多く激務とは聞いており、覚悟はしていたつもりであったが、覚悟はあっても、それが実行できるかは別だ。
思っていたよりも人って脆いんだなと、厳しい状況に絶望しながら、耐えた。
ストレスのためかホルモンバランスの悪化も感じていた。生理前は鬱のようになったり、異常な眠気を感じるようになった。

やらないといけないことが、私にはできない。
頑張れないことの何を頑張ればいいのかと、思った。
私が私でなければ続けられたのかな。

しかし、そんな状態でも二年もいれば多少の知識はつく。
一年の予定は、取れる仕事に左右される。
アサインされた業務は幅が広かった。
岩石の種類、土質の工学的分類、地形の見方、コンクリートの変状、河川構造物の名前、設計の手順の全体像は理解できた。それだけでも、構造物の見方が変わった。高速道路から見える景色から目が離せなくなった。

移動時間は睡眠時間を奪いもする。
でもそれだけ、いろんな先輩と現場を一緒に歩けた。
現場ではその土地の岩石、地形の見方を教えてもらった。
時間ギリギリまで作業したり、何度も通った現場ができた。全国のどこかに少しずつ、誰かとの思い出が積もっていく。

こんなに辛くて長い2年は初めてだった。
会社にとっても自分にとっても損な関係性になってしまったなら、辞め時ではないかと思った。
そして悩みながら転職活動を続け、幸いにも内定をいただいた。

思いがけず引き止められて、私は続けることを選んだ

2月の初めに退職を申し出た。
体調面がコントロールできず、今の働き方では続けられないこと、こんなことを言われても迷惑だと思うが、育てていただいたことへの感謝を正直に述べた。
話しながら、ひどい生活になったりもしたけれど、それでも、できるならあと少し、続きを見てみたかったなどと考えていた自分もどこかにいた。

話は、理由が体調面によるものなので、すんなり終わると思った。
しかし、そうはいかなかった。
上司からは、体調が厳しいなら、自分が仕事量を調節するから、もう一年やってみて転職先を考えても良いのではないか。
一緒に転職先を探してもいいからとまで言われた。

そんなこと言われちゃうんですか。
どこまで信じたらいいのか分からないが、そこまで引き止めてくれる上司がいて、自分の中でも未練に気づいてしまって、三回面談した。

中途半端な人間である。
辞める話をしに行って覚悟が揺らぐなど、甘いなと思う。
辞めるなら辞めろよと思う。
でも、なぜ辞めたいとも思い切れないのかも、もう少し知りたいと思ってしまった。
そして、カッコ悪いかもしれないが、結果的に私は続けることを選んだ。
体力的に無理な面は、申告して他の人に任せられるようにすることもできるので、相談すること、班編成を変えるなどで調整することとなった。

正直それで何とかなるのかは、全く分からない。またダメかもしれない。
でも、そこまで言ってくれた人と、未練を感じた自分を、今は信じてみたかった。
また絶望してしまう日もあるかもしれないけれど、もう少しこの分野を見てみたかった。

そうして、まだこの仕事を続けている。
相変わらず朝早く夜遅いこともあるが、後悔はしていない。
もう少し誰かと、私の知らない景色を見てみたくなってしまったのだ。