18年間。3歳上の姉が結婚して家を離れるまで、私は姉と相部屋だった。
7歳のときに引っ越してきたマンションは、元々4LDKの角部屋だったが、小さな部屋二つの壁を取り払い大きめな部屋となり、3LDKに改築されていた。
「大きな子供部屋を作りたかったんだ」とリフォームを中心となって進めた父は、「子供部屋」という言葉を少し自慢げに鼻を膨らませて発音する。仕切がないその部屋を、私と姉は7歳から25歳までシェアしていた。
シンクロは日常茶飯事。性格は真逆なのに馬が合った私たち
それがずっと相部屋だから仲が良かったのか、仲がいいからずっと相部屋でいられたのかは分からないが、せっかちでずぼらでそそっかしい私と、マイペース・スローペースで少し天然な姉は、性格が真逆なのに基本的にウマがあった。
全く別々のことを隣でやっていて、ふと思いついた歌を鼻歌で歌っていると、「ねえ気持ち悪い!私も今その歌、頭の中に流れていたんだけど!」と姉がびっくりする。そんなシンクロは日常茶飯事だ。
小さなころは、ちょっと広めな子供部屋で、正月は羽根つきをしたり、テニスのボレーの練習に熱中して、羽やボールが明後日の方向に行き障子を破って、仲良く二人で怒られたりした。
喧嘩ももちろんあった。部屋の左右にそれぞれの勉強机と棚を置き、自分のスペースにしていたのだが、自分が右側を使っていれば相手が使っている左側が、自分が左側を使って入れば相手の使っている右側が、なぜかより良いものに写り、「ねえお姉ちゃん、ちょっとずるいよ、そっち側の方が良くない?」などと難癖をつけては温厚な姉と交換してもらった。
そんな温厚な姉の服を無断で借りては怒らせてしまったり、お互いが多感な時期は自分のスペースに相手が侵入してきたりすると、言い争いになったりしたが、お互い一人になるスペースがなく、どんなに喧嘩しても結局夜は隣合わせで布団を引いて寝るため、一晩経つと何事もなかったように、「おはよう」と元の関係に戻っていった。
眠れない夜は、修学旅行の最終夜のようなかけがえのない時間
お互いが好きな人や彼氏ができる頃になると、姉がいても気にせず相手に電話をかける無頓着な私と、私を部屋から追い出して一人で電話かけたい姉。二人の性格の違いはそんなところにも出た。
「ねえ、まよ。そろそろお風呂に入らない?」と姉が言い出すと、そのサインだ。
「いいよ。長めに入ろうか?」とニヤニヤしながら私が答えると、「うん、長めでお願い」と、これまたニヤニヤしながら返す姉。
風呂から出てもまだ電話が続いていると、またニヤニヤ。そんなときは気を利かせて部屋に戻らず、リビングで時間をつぶしたりしていた。
基本的には寝つきが良く、夜更かしもしない姉妹二人だったが、それでもお互い寝つきが悪い夜もある。
眠れないで布団の中でもぞもぞしていると、「ねえ起きている?」とどちらともなく声を掛け、暗闇の中、何時間も恋バナやくだらない話で盛り上がる。
そんな夜は眠れない、眠らない。まるで修学旅行の最終日の夜のような時間は、私にとってかけがえのない時間だった。
一人で使うには広すぎる部屋を少し持て余し、寂しく感じている
沢山の恋バナの末、結婚した姉は家を出た。私は子供部屋を一人で使っている。
あれだけこだわっていた左側のスペースも、右側のスペースも、晴れて自分だけのものとなった。お風呂を出た後、自分の部屋で裸でくつろいでいて、「少しは人目気にしてよ」と怒られることも、夜中こっそりお菓子を食べているのがばれて「太るよ」と水を差されることもなくなった。でも、同時にあの修学旅行の夜の時間もなくなった。
結局、私は一人で使うには広すぎるこの部屋を、姉がいなくなり空いてしまったスペースの分だけ、少し持て余して、少し寂しく感じている。