パートナーに「あなたは自分のことを話すのが得意なのだから、どこか発信できる場所を探してみたら?」と言われた。
褒められると木の上で踊るタイプの私は、その言葉を間に受けて、どこか波長の合いそうなプラットフォームを探し始めた。
するとどうだ。インターネットの文字列の波の中で、燦然と輝く「かがみよかがみ」のサイトが私を手招きしているではないか。導かれるようにしてエッセイの投稿フォームへ辿り着く。
運命と使命を感じてからものの5分で、熱い想いは行き場を失った
「私は変わらない。社会を変える」という力強い理念に胸を打たれた。このサイトはまさに私のためにあるのではないか、と思ってしまうほどの運命と、そうだ社会を少しずつきっと変えてやるんだぞという燃えるような使命を感じた。
しかし、そんな熱い想いはすぐに行き場を失うこととなる。募集要項内の「対象 18歳から29歳までの女性」という文言が目に入ったからだ。
終わった。なぜなら私は29歳なのだ。さらに、おお、なんとひどい運命のいたずらなのか。何を隠そう、私は1ヶ月後の7月7日にめでたく30歳の誕生日を迎えてしまうのだ。
どうやら運命を感じていたのは私だけだったようだ。私の革命は「かがみよかがみ」に出会ってものの5分で鎮圧された。
もちろん「年齢制限」の理由もじっくり拝読し、納得することができた。編集部の方の想いも痛いほど理解できる。そこについて私が異議申し立てをすることは決してない。
けれど、日常生活であまり感じていない「女性としての年齢コンプレックス」をまさかここで味わうとは思ってもみなかったので、ただ少し面食らってしまっただけだ。普段、自分の年齢をさして気にすることがない私にとっては、今回のこともある意味では新鮮な経験だった。
「歳を重ねたら自分の価値が落ちる呪い」から私は既に脱却していて
「年齢を気にしていない」ということは、「自分が若いと思っている」ということではない。むしろ私の肉体はここ一年で急激に衰えている。
生理前に気持ちがズン……と落ち込むようになったし、ちょっと夜更かしすると肌が砂漠のようになってしまうし、髪を染めるときに白髪染めを混ぜてもらうようになったし、アキレス腱を伸ばすと足より股関節周りが伸びるようになったし……。
自分自身の肉体が着々と中年に向かっていってるのが、ありありとわかる。ただ私は、「歳を重ねたら自分の価値が落ちる」という類の呪いから既に脱却しているのだ。
どのタイミングで自分自身は呪いから解き放たれたのか思い返してみると、やはりそれは、自分で自分を認められたときにほかならない。
私はレズビアンである。だか長年それを認められずにいた。「正しくないもの」だと思っていた。
女性は男性と結婚し、若くして出産せねばならない。無言でそう迫る社会は本当に息苦しかった。だが、腹を括って固定観念から脱却し、自分は自分でいていいのだと認めることができたら途端に気が楽になった。
この瞬間、私は年齢の呪いから解き放たれたのである。同時に、エネルギーがむくむくと湧くようになってきた。どれだけ今まで自分が抑圧されていたか驚くほどだった。このエネルギーを、誰かのために使いたいと強く思うようになった。
姪が生まれ、LGBT団体に加入。エネルギーの使い道を定めた二年前
二年前、二十七歳のときに大きな出来事が二つあった。このとき、私は有り余るエネルギーの使い道を定めたのだ。
まず、自分が住んでいる地域のLGBT活動団体に加入した。今は六月のプライド月間に合わせて行われるプライドパレードの準備をしている。
「ライフプランに結婚を含まない」と上述したが、あれは若干本意ではない表現だ。可能ならばパートナーと結婚したい。しかし、理不尽なことに今の私たちが結婚するのは不可能なので、現状に腐らず、自分のできることころから社会に向けてアクションをしていこうと考えた。
次に、姪が生まれた。今もあのピカピカの笑顔を思い浮かべるだけで涙が出そうになるほどかわいらしく、きっと彼女は私の一生の宝となるだろう。
彼女がこれから生きていく社会を、良いものに変えていきたい。彼女の人生において理不尽なことや、怖い思いをすることが限りなくゼロに近付いてほしい。そのために、女性の権利についての学習を前述した団体ではじめた。
もちろん、女性の権利について学ぶことは、姪の将来への道路を整えるだけでなく、今を生きている自分やパートナーや仲間たちを救うことにも繋がる。
今日以上に若い日は二度と訪れないから、今日という日を存分に味わう
正直、もっと早く社会へのアクションを始めたかったと悔やむときもあるのだが、それなりに回り道をしてきたから仕方がない。自分自身の性自認や性的指向を迷い、悩み、認め、歩み出すまでに結局四半世紀もかかってしまった。未来の若人がこんなことで迷って悩んで時間を浪費しなくても良くなる社会を作るために、私は溌剌と生きていくのである。
人生で今が一番若い。今日以上に若い日は、もう二度と訪れない。明日、また明日と日々が過ぎていくのにつれて私は少しずつ老いていく。ならばやはり、今日という日を存分に味わって生きようではないか。そのための第一歩としての自己発信だ!
ああ、でも、やっぱり「かがみよかがみ」のサイトとも、二年前に出会いたかったな。そうしたら、もう少しやりようがあったろうに。ようやく人生が面白くなってきたところなのに、出会ってすぐサヨナラしなくちゃだなんて、味気なさすぎる!
もちろん、読者としてはこの場所にしっかり残ります。