人生いつ辛いことが起きるか分からない。でも、わたしには一生ものの友達が味方についていることを覚えていれば、きっと乗り越えていける。
そう思える出来事があった。
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遡ること2年前。27歳の夏、大好きな人に振られた。数年ぶりに恋をした相手に突然別れを告げられたのだ。
彼は一回り近くも年上だ。行きつけのバーで知り合って、何度か会ううちに気づいたら打ち解けていた。正式に付き合っていた訳ではなかったけど、たくさん連絡をとって、たくさん出かけて、たくさん一緒に笑った。
隣に居られる時間がいつまでも続いて欲しいと本気で願っていたのに、これからはもう会えないと急に言われたって、簡単には受け入れられない。
仕事中も休日も、どこで何をしていても胸が苦しくて、全身が重たくて絶望感でいっぱいの日々が1週間ほど続いた。寝ても起きても楽にならない。
そういえば失恋したときってこんな感じだったな、と久しぶりに味わう痛みに打ちひしがれていた。
あのときワガママを言わなければ、もう少しだけ歩み寄れていれば、もっと長く関係が続いていたのではないか。これまでの出来事を振り返って、止まらない後悔とこぼれる涙に苦しくてどうしようもなくなってしまう。
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こんなときは誰かに話を聞いて欲しいけど、失恋したのが中途半端な関係の相手という気後れがあって、なかなか人に相談できずにいた。
引かれるかもしれないのを承知で打ち明けてしまうか、やっぱりやめて自分の胸だけにとどめておくか。
しばらく迷った挙句、やっとの思いで友人Aに連絡をしてみる。
「一生のお願いなんだけど、何も聞かずにドライブに連れて行って欲しい」
すぐに返事が返ってきた。
「そんなことで一生のお願いを使わなくても、いくらでも連れて行くよ」
こうしてわたし達は失恋ドライブに出かけることになった。
友人Aは大学の同級生だ。
住んでいる県が離れているので、卒業してからは年に1回でも会えれば多い方。それでも、お互いの誕生日を祝ったり近況報告をしたり、定期的に連絡を取っている。急にドライブに連れて行って欲しい、と頼んだにもかかわらず、理由も聞かずに快諾してくれたそのやさしさには感謝してもしきれない。
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ドライブ当日はお気に入りのCDを持って行った。友達以上恋人未満の年上男性との切ない恋模様を歌った曲を、自分の思い出と重ねて延々と聴いた。
たわいない話をしながら車に揺られる。ひとりではあんなに辛かった心が、ふたりで居ると少しずつほぐれていくのが分かった。
結局、失恋したことを洗いざらい話した。わたしがこぼす後ろめたい気持ちを、友人Aはむやみに否定せずに一つひとつちゃんと受け止めてくれた。そして励ましてくれた。
あぁ、話してよかった。抱え込んでいたものを手放せて気持ちが楽になる。
ドライブの途中で、見せたいものがあるんだよね、と1本の動画を勧めてくれた。ホームビデオのおもしろハプニング映像で、思わず声をあげて笑った。
見せてくれた動画が本当に自分の好みでうれしくなった。わたしのことをちゃんと分かってくれているんだ、と。
大好きな人に別れを告げられた瞬間は、全身が絶望感でいっぱいになっていたから、危うく忘れかけていた。
わたしには、一生のお願いを使わなくたっていつでもドライブに連れ出してくれて、笑いのツボをしっかり押さえていて、どこまでも味方でいてくれるかけがえのない友達がいる。
たとえ恋がうまくいかなくたって、ひとりじゃないから大丈夫。
そう思えた頃には胸の痛みは薄れていて、前を向いていた。