「私が死んだら、私の持ってるものは全部あなたにあげるからね」
おばあちゃんはいつも孫のわたしに言っていた。
幼い私は、「死ぬ」ことなんて遠い将来のことだと思っていたから、いつもそれを言われてもはぐらかしていた。
ただ、なんとなく聞き流していた。
◎ ◎
母方の祖母の家には小さい頃からよく家族で遊びに行っており、いわゆる"おばあちゃんの家へ遊びに行く"というイベントであったため、私は毎回楽しみにしていた。
緑がたくさんある祖母の家周辺の地域は、いつも見ているビルばかりの都会とはまた違う魅力があった。
春には何十本もの桜の木の下でお花見をし、夏には大きな花火大会、お正月には祖母の家の近くのショッピングモールで福袋を買うのが私の家での毎年の恒例行事になっていたので、学校の長期休みがあれば必ずと言っていいほど家族で遊びに行っていた。
祖母も祖父も、いつも私たちが来るのを楽しみに待ってくれていたようだ。
祖母はいつも皆の前ではお洒落を欠かさない人で、どんなに遅い時間でもしっかりお化粧をして、綺麗な洋服で私たちを出迎えてくれた。
小さい頃は気がつかなかったが、寝る前以外、祖母がお化粧をしていないところを見たことがない。
私だったら気の知れた身内だし……と特に見た目など気にせず出迎えてしまうのではないか。
とても素敵な女性だなと今になって思う。
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皆が買い物などに出かけるとき、祖母は家で待っていることが多く、私はそんな祖母の留守番に付き合うのが大好きだった。
キラキラした宝石の指輪、輝く色んな色のビーズ、可愛らしいデザインの着物や帯……。祖母は、女の子である私にとって魅力的なものを沢山持っていた。
アクセサリーを作るのが趣味だった祖母がビーズケースを開けるたび、私にはそれが宝箱のように見えた。
綺麗なビーズでアクセサリーをすいすいと編み込んでいく祖母の手元を眺めているのが楽しかった。
はじめはバラバラだったものを、いろんな色のお花やハート形、たまに動物の形に生まれ変わらせていく祖母は魔法使いのように見えた。
祖母はいつも私に言う。
「私が死んだら、私の持ってるものは全部あなたにあげるからね」
祖母は、作ったアクセサリーやキーホルダーを、よく母や私たち孫にプレゼントしてくれた。
学校へ持って行くポーチにつけたりすると、周りの女の子から「可愛い!これどうしたの?」と聞かれたりするのが嬉しかった。自分が作ったわけでもないのだが、なんだが誇らしくなってしまう。
祖母の影響からか、私自身もハンドメイドに興味を持ち始め、色々手を出してみるとビーズアクセサリーを作ることがどれだけ難しいかを知った。
もっと聞いておけばよかった、なんて未だに思う。
◎ ◎
私が大学受験を控えていた頃、祖母が亡くなったと連絡が来た。
病気だった。
私はそれまで身内の死を体験したことがなかった。だからこそ実感は一切湧かなかったし、明日にはまた祖母が笑って私を家に迎え入れてくれるような気もしていた。
しかし現実は訪れるもので、私は約束通り、祖母が持っていたビーズや着物を譲り受けた。
小さい頃からずっと憧れて、キラキラして見えていた物たち。
実際自分の手に渡った時、祖母が言っていたことが現実になったことを実感した。
祖母はもうこの世にはいないのだ。
わたしは今になっても、祖母のあの言葉が何故か忘れられない。
祖母は自分の大切にしていた物たちをどんな思いで、どんな心境で孫に譲りたいと思ったのだろうか。
この答えが分かるようになるまでどのくらいの時間が掛かるか分からないけれど、私が忘れたくないことの一つである。
祖母が大切なものを譲る相手に、私を選んでくれたことをすごく嬉しく思うし、私も"おばあちゃん"になったら自分の大切な物を大切な人に譲れたらいいなと思う。