私は自分のことをふった。
そして、自分にふられた。
私が自分のことをふったのは、純粋な自分に疲れたから。
かつての自分は人生に対してまっすぐで、真面目だった。
頑張ったら100%じゃなくても報われる。頑張ったら将来は良いことがある。
そして、世の中には優しい人がたくさんいて、映画に出てくるようなずるくて悪いやつは少ししかいない、と思ってきた。
そして、親の言うことは絶対だと思ってきた。
私は知らなかった。
力を入れて真面目に取り組んでも、うまくいかないことはうまくいかないし、手を抜きながら遊びながら誰かに甘えながら生活していた人がうまくいくということを。
そして、自身の欲望のままに動き、お金と数字のために相手をモノのように扱う人がいるということを。
嘘や欺きはその辺に転がっているということを。
そして親とは世代が違うし、親の言うことすべてが正しいわけではないということを。
誤った育て方をされ、私は知らず知らずのうちに歪んでいたということを。
とにかく、私は知らなかった。
◎ ◎
かつての自分は、エネルギーや心を常に点火し続け、私に挑戦させ続けていた。
だけど栄養や休息、労いの言葉や褒め言葉、ご褒美を与えていなかった。
疲れた私のことを律し、1秒たりとも無駄にさせず、できないことをリマインドし続け、タフな道を選ばせ続けていた。
目の前の人を疑わずに無条件に信用して優先し、私のことは後回しにさせていた。
頑張れば報われる。
悪いやつはそうそう巡り合わない。
そう思っていた。
そんな生活を10年以上続け、2年前、私は自分のことをふった。
誠実で、素直で、一生懸命で、常に上昇志向を持っていた自分とお別れすることに決めた。
ふった理由は、疲れたから。苦しかったから。限界を迎えたから。
ふった後の私は昼寝、飲酒、スマホに時間を使うようになり、失敗しても何も思わなくなった。サボってサボってサボって、楽な道を選ぶようになった。
私を甘やかし始めた。バレなければいいと思うようになった。みんなに笑顔を振りまかず、付き合う人を選ぶようになった。話半分で流し、信用しないようになった。
そんな生活は最高だった。
だって、そのまんまの私でいていいんだもん。
◎ ◎
もちろん、かつての自分とはキッパリ別れられてはいない。
時々、そのままじゃ絶対後悔するから少しは勉強して、これまでのように誰かのことを信じるようにと声がけされてはいた。
だけど、目の前の楽しいことや傷つかないことのほうが大切だと思うようになった。
だって、勉強して資格をとったって私なんてどうせうまくいかないし、頑張ってコスメや服を我慢して貯金して勉強して留学して、新聞や本を読んで時代にキャッチアップして就活に備えていたのにご縁に巡り会えず、就活は本当に大変だった。
その一方で、私の友人はお金持ちで有名大学に幼稚園から入り、満足に勉強をしてこず、ただ遊びたいという理由で留学して、その後コネで大手の有名企業に就職した。
優しいな、と思っていた人にセフレにされたり、頼れるな、と思っていた人には自身の人材紹介の仕事のノルマのため会員登録させられたりしたし。
よくご飯に誘ってくれて仲良くなれたと思ったら、愚痴だけ聞かされインスタ用のカメラマンにされ細かい指示出しをされたこともあったな。
親だって、結局私のことを見てくれているわけじゃなくて、“我が家の理想の娘”として染め上げて所有していたいだけなんだよ。
これまで先のことを考えてコツコツ勉強したりいろいろなことに挑戦したり就活したりしたけど、私なんてどうせうまくいかないんだよ。
頑張っても報われないんだよ。
親も家族も含めて、誰のことも信用できないんだよ。
世の中は悪いやつばっかりなんだよ。
かつての自分をふって、何事も頑張らず、誰のことも信頼しない私の人生は楽しかった。
◎ ◎
そんな中、私が自分に復縁を申し込んだ理由は、社会人になって不安になったから。
だから、1年前にふった自分に何度も何度も復縁したいという気持ちを伝え続けているけど、ふられ続けて1年半経っている。
私だって、自分と復縁するのはすごく勇気がいるから色々考えた上で覚悟を決めてるよ。
かつての自分と付き合うということは本当に苦しくて、つらくて、疲れることだってわかってるよ。
一瞬も気を抜かず、正直に、コツコツと、休みの日も休まず常に目標のことを考え続けて、うまくいかなかったら迷惑かけた関係者のことを思い、しっかり落ち込み、それでも挑戦し続ける。
できたことがあっても私のことを認めてくれないし。むしろけなされるし。
疑いの目をかけず相手の言うことを信じなければいけないし。
自分の言葉にも、他人の振る舞いにも傷つけられなければならない。
だけどそれでも、かつての自分に戻ってもう一回人生に挑戦したい。
頑張りたい。
エネルギーがあって頑張り続けていた私のこと、彼氏にも見てもらいたい。
だけど、かつての自分は、私のことを受け入れられるようにまであと数か月、心の準備が必要なんだ、って言っている。
もしその間に別の自分を見つけたら、その自分と新しい人生を頑張ってね、とも言われている。
かつての自分もどうやら疲れてたみたい。
だから、私がお願いしても彼女にはふられるんだね。キャパオーバーだったんだね。
◎ ◎
そんな私の状況はこうだ。
私は、一度自分のことを手放し、離れたことで私のありのままを楽しんだ。
そして、フルに楽しめたから新たに人生との向き合い方や自分の価値観を見つけていかなければならない時期に入った。
宙ぶらりんの今は、休んでもいいし、前の自分に復縁を申し込み続けてもいいし、新しい自分とデートしたり仕事をしてみてもいい。
頑張れなくなって本当につらいけど、だけどいつか別れた自分のことをかわいがってなぐさめて抱きしめられるようになりたい。
ということを、友達の定期演奏会を聴きに行って、ステージでサックスを吹く彼女を眺めながら考えた。
そういえば私って舞台での発表が好きで、中高どちらもステージで発表するような部活に入っていたし、スピーチコンテストも参加していたし、TEDトークもやったことがあるし、学生団体でもプレゼンや講演をしていたな。
そういえば、ベリーダンスを習いたいと思っていたんだった。
どこかの教室の体験に行ってみようかな。
まずは、自分の頑張りたいことを見つけてみようかな。