東京から北海道に引っ越して、5年以上が経った。
生まれも育ちも東京だったわたしは、これから先、どこでどんな風に暮らしていこうか考えている。

わたしが今住んでいる場所は、歩いてすぐのところに山がある。
今の季節は、犬の散歩のために外へ出ると、緑の山が目に入ってくる。
毎日見ているのに、ここで暮らせて良かったなあ、としみじみしてしまう。
温度や湿度、道の広さ、人の数、少し車を走らせると山や湖に行けること。
東京にはないものだと思う。

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北海道にいて、物足りなさを感じることもしばしばある。
わたしは世界のご飯が大好きで、東京に帰ると必ず、アフリカや東南アジア、ヨーロッパなど、色んな国のご飯を食べに行く。
ほとんどの場合、その国の方が厨房や接客をやっていて、おすすめのお酒や、その料理がどんな味付けなのか、などを教えてくれる。
なかなか味わえないものを、その国の雰囲気の中で味わうのは特別な時間だ。
北海道でもよくタイ料理やトルコ料理を食べる。
けれど、東京の、今どこに立っているのか分からなくなるほどの、入り混じった空気は感じられない。

それに、行きたいライブや展覧会のほとんどは東京開催だ。
東京に住んでいた頃は、見てみたい、聴いてみたいと思うものに、自由に足を運ぶことができた。
10代の、自分の好きや嫌いを見つけていく段階を、東京で過ごせたのは幸せだった。
最近は、行きたくても諦めるイベントが多い。
こんなことがある度に、東京に住んでいたらなあ、と思う。

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こんなに好きなものが東京に集まっているのに、北海道での生活を手放すのが惜しいと感じる。
いっそのこと北海道の土地に、東京の娯楽が全て移動してくれば良いのに。
東京は面積が狭すぎる。
人も建物も多すぎて、いつか底が抜け落ちてしまうんじゃないだろうか。と本気で思ったことがある。
東京だけ海の中の街になる。
想像すると結構怖い。

数週間とかそれくらい長い間帰省していると、東京での暮らしが当たり前のような感覚になる。
どこに行くにも、人がぎゅうぎゅうの満員電車に乗る。
北海道で暮らしていると、他人と体が触れ合うことなんてない。
最初は、嫌で嫌でたまらないのに、何回か乗ると、どこかで慣れてしまうというか、納得してしまう。
東京はこういうもんだよな、と。
暑くてジメジメしていて、そこにいるだけで体が不快になる。早く帰ってシャワーを浴びたい。
でも、こういうもんだよな。

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どこの街にも人が大勢いて、真っ直ぐ歩けなくて、肩がぶつかって舌打ちされて、苛立って、ふと立ち寄りたくなったお店には行列ができていて、諦めて、夕方になると道路は渋滞の赤いランプで埋まる。
疲れるからか、いつもよりたくさん眠ってしまう。
それでも好きなものがたくさん詰まっていて、家族や友達がたくさんいて、結局は大好きな東京だから、流れるように毎日が過ぎていく。

わたしはこれからどこで暮らすのか、どんな生活を送るのか、まだ分からない。決められない。
家族や友達が恋しくて東京に戻るかもしれない。
どこかの国でひっそりと暮らすかもしれない。
だけど、北海道での、たしかに豊かな暮らしをずっと覚えていたいと思う。
ただそこにいるだけで気持ちの良い毎日のことを。
自分が心地良いと感じる、土地や空気のことを忘れないでいたい。