私は推しのイベントに出向く時、いつも困っていることがあった。
それはイベントに着ていく服だ。
オタクの間ではイベントに着ていく服のことを参戦服と呼んだりする。
最近はコロナ禍ということもあり、推しと一対一で話せるわけじゃないけど、ステージから見てくれるかもしれないし、やはり距離があっても推しと会える日というのは特別な日なので、しっかり服にはこだわって、おしゃれして行きたいのだ。
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しかし、その参戦服選びは病むくらい悩む。
楽しいイベントのための服選びなんて楽しいに決まっているのに、私は毎回苦しんでいた。
何を着ればいいのか悩んでしまう。
もっと具体的にいうと、何を着るのが自分にとって正解なのかわからなかった。
私はシックでモノトーンなコーデが好きなのだ。
いわゆる最近の可愛い量産型コーデや地雷コーデのような可愛いものは、好きではあるが自分が着たいとは思わない。
けれど量産型コーデは、自分の骨格やパーソナルカラーに似合うものが多い気がする。
「ゆめみがちさんは白のフワッとしたワンピースが似合う」とか言われたことも思い出す。
しかし、頼んでもいないのに美容院やアパレルで勝手にゆるふわにされてきた嫌な思い出も蘇る。
せっかく推しに会うなら、少しでも自分が盛れる格好で行くべきでは?
私の好きなモノトーンのコーデはパーソナルカラー的に正直あんまり盛れない。
でもモノトーンのコーデが好きなんだよな。でも推しの好みって、ゆるふわな感じじゃないか?
こんな風にずーっと頭の中がグルグルしてしんどかった。
それでも結局は自分の我の強さが優先されてしまう。
「推しのことは大好きだけど、推しに気に入られるためにイベント行くためじゃねえし」
と、普段あんなに推しに気に入られるようにメールを送りまくってるくせに、都合の良いことを言い出す。
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イベント当日、お気に入りのモノトーンコーデで会場に着くと、どの現場も周りは可愛い量産型コーデの女の子だらけだ。
本当に嫌味なく、めっちゃ可愛い。
「私だけモノトーンで、なんか昆布おにぎりみたいじゃないか?!他の子と同じようにした方がよかったかなあ!?」と急に不安になるのも、お決まりだ。
毎回毎回、推し本人とは関係ないことで情緒不安定になるのをどうにかしろよと思っていた。
そんなとき、「ゆめみがちさんの服、好きなんですよね〜」とボソッと同担に言われた。
何気ない一言だったが、その一瞬で今までグズグズ悩んでいたことが一気に消え去った。
嬉しかった。「あ〜、ありがとうございます〜」と普通に返事をしたが、自分でもびっくりするくらい嬉しくて心臓がドキドキした。
そのとき私は全てを理解した。
自分の好きな格好をして、褒めてもらえたどころか、その服を「好き」と言われることは最高の喜びだと気づいた。
嘘偽りのない自分で勝負して、それが認められたということに、自分の脳内では変換された。
イベントの参戦服ごときで大袈裟かもしれないが、とても悩んで決めたコーディネートだったから喜びは大きい。
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そもそもこんなにも推しのイベント参戦服に悩んでいたのも、「推しの前では最高の自分でいたいけど、気に入られる自分を偽りたくない」という心が根底にあったことにも気づいた。
それくらい私はモノトーンのコーデが好きだったし、自分にとっての「最高の自分でいること」は、盛れることではなく自分の好きな物を身にまとうことだった。
その次のイベントから、参戦服については相変わらず迷うけど、自分の好きなモノトーンコーデの中で楽しく迷う時間となった。
そしてイベントの時以外でも、自分の好きな服やコーディネートをすることに自信が持てた。
「あなたの服好きなんですよね」
たったその一言で、自分の好きに自信が持てた。
やはり持つべきものは同担。本当にありがとう。