特集:忘れられない街

あんなに嫌だったはずなのに。二度の入院が今、涙が出るほど懐かしい

忘れられない街

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わたしは二度、入院をした。

病院がある街は、偶然にもわたしが生まれた街だった。
母は里帰り出産だったので、わたしは出身地に住んでいたことはない。
たまたま入院した病院が、その街にあった。

◎          ◎

わたしはあのとき、学校に行けなくなった。
家では毎日怒鳴り散らし、泣き叫んでいた。
何に怒っていたのか、どうして泣いていたのかは、覚えていない。
ただ、生きていることが辛かった。
それだけは覚えている。

親は言った。「病院に行こう」と。
わたしは答えた。「嫌だ」と。
「一度行くだけだから」と無理矢理連れて行かれた日に、わたしは入院させられた。

入院した日の夜は、今でも忘れられない。
よくわからない個室に連れ込まれたわたしは、一晩中ベッドの上で泣いていた。
知らない女の人が夜中に部屋にきて、話しかけてくれた。
彼女はわたしに名乗ったから、「あなたは先生?」と尋ねたら、「みんな、さん付けで呼ぶ」と教えてくれた。
彼女は看護師だった。

それから毎日のように、わたしは訴えた。
「早く退院したい」と。
その甲斐あって(?)、数ヶ月後には退院した。

わたしは気づいていなかったのだが、生きるのが辛くなるほどしんどかった学校では、どうやらいじめられていたらしい。
友達と呼べるような人もろくにおらず、先生から「休み時間、遊ばないの?」と言われたとき、「他にやることがないので」と答えながら掃除をしたり、掃除用の雑巾をせっせと洗っていたことを思い出した。
あの環境にはもう戻りたくない。
そう願ったわたしの、「転校」という希望は、幸運にも叶えられた。

◎          ◎

悲しいことに、どうやらわたしは入院中、著しく学力が落ちてしまったらしい。
勉強が全くできなくなっていた。
転校前は、自己評価で中の上ぐらいだった成績が、転校後は下の下に落ちた。
思い返せば、入院中も学校には通っていたものの、レベルが低くて学ぶことが何もなかった。
あれでは学力の低下も仕方ない。
それを受けて、身体に変化が起き始めた。
病院で受けた診断は、「強迫性障害」。
いわゆる「潔癖症」。

「潔癖症」を「ただのキレイ好き」と思ってはいけない。
いわゆる不安障害の一種で、強い不安や恐怖から逃れるため、何かの行為をせずにはいられなくなる。
「タバコ臭い人が近くにいた」
ただそれだけで、その臭い空気に触れてしまった自分が汚れた気がして、洗わずにはいられない。
何かに触れた後、次のものを触る前には自分の手が汚れてしまっているから洗わなくてはいけない。
何もかも、手を洗わずに触ることができなかった。

その回数は尋常じゃなく、起きてからお昼までに軽く100回を超える。
毎日続くそれは、精神だけでなく、わたしの皮膚も蝕んだ。
固形石鹸を2日に1個消費するなど、普通の日常が送れなくなり、再度病院送りに遭った。

この頃には、もう諦めの境地だった。
二度目の入院中は、一度も「退院したい」と言わなかった。
そのせいか、二度目は一度目よりも長かった。

◎          ◎

今でも、あのとき一緒に入院していた子たちのことを思い出す。
わたしを診てくれた先生も、面倒をみてくれた看護師さんたちも、入院中に通っていた学校の先生たちも。
みんな、元気かな?
当時は携帯を持っていなかったし、持っていたとしても持ち込むことができなかった。
かなり年配の先生や看護師さんもいたから、もう今は亡き人もいるかもしれない。

今、その病院からそう遠くない街に住んでいる。
近くを頻繁に通るわけではないけれど。
たまーに通ると思いを馳せる。

あのときのわたしへ。
再入院は、少なくともその後15年間はしないよ。
そこで過ごす時間は、誰もわたしをいじめないし、人生の中でも数少ない、わたしに悪意のある人たちがいない場所と時間。
あんなに嫌だった入院を、必ず、涙が出るほど懐かしく思う日がくる。
だから、その時間を大事にしてね。

いつか、あの頃の思い出を話せる人に、再会できますように。

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