「次のテーマさー、『邪魔されたくない時間』なんだよねー。なに思い浮かぶ?」
いつものデートの、何気ない問いかけ。かがみよかがみというメディアと出会って、もりもり文章を書き自己表現をするようになった私。そんな彼女である私の生み出すエッセイに、彼氏は毎回大きな興味を示す。12歳のときに出会ってから、もう15年が経ったのに、まだ知らない一面があるのが面白い、らしい。
だから、デートの会話で、次のエッセイのテーマを話題に挙げるのは不思議なことではない。ここ毎週エッセイを投稿していて、最近は少しネタ切れぎみ。彼氏の意見を参考に、新しいアイディアが浮かべられれば、と冒頭の質問をするに至った、ということだ。
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180センチという長身の彼氏に対して、私は154センチ。少し身長差のある彼氏の顔を見上げぎょっとする。
にやにや笑っていたのだ。マスクの上からでも分かるくらいの満面の笑み。その笑みを見た瞬間、悟る。ああ、また変なこと考えている、こいつ。
「邪魔されたくない時間って言ったらねえ。そりゃあねえ、あれですよ、まよさん」
答えを聞かずに察してしまう同じレベルの自分が憎い。
「待ってよ、書けるわけないでしょ、そんなテーマ!」
「ええ?書けないの?」と、ニヤニヤを続行させながら今度は彼氏が顔を寄せてくる。
「革命の旗手まよさんに書けないことなんてあるんだー」
書けないのか、私に?書けるのか、かなりタブーだぞ。いや、やってやろうじゃん。彼氏の安い挑発に、これまた単純な私は燃え上がった。
書いたろうじゃん、オナニーについて。
そういうことで今回は、邪魔されたくないというか、邪魔されなくて当然、万一親にでも邪魔されたらトラウマ必至の「オナニー」についてだ。
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かがみよかがみのエッセイを執筆する際に、必ずやるようにしていることがある。
自分のエッセイに関してキーワードを抽出し、どのくらい類似のエッセイが今まで執筆されているのか、調べる、ということだ。かがみすとたちがどこにアンテナを張り、何に興味があるのか知るためだ。
今回は「自慰」「マスターベーション」「オナニー」辺りで調べれば良いか。気楽に考えていたが、その結果は思いもよらぬものだった。
検索結果。
「自慰」8件、「マスターベーション」16件、「オナニー」に至ってはたったの5件。
単純比較はできないが、Google検索で「女性 オナニー」と調べたら、約1億件もヒットした。
性欲は、睡眠欲、食欲と並ぶ三大欲求のうちのひとつだ。TENGAが実施しているマスターベーション世界調査(そんなものあるのか!)によると、日本人のオナニーの初体験年齢は14.6歳と言われており、女性のおよそ40%が14歳までにオナニーを経験している、らしい。
このように、匿名であるかがみよかがみより、より匿名性が強いネットの世界では、様々なメディアで、女性がオナニーすることは普通のことだと発信されている。なのに、あるはずの性欲、しているはずのオナニーを、発信している女性たちはこんなにも少ない。
では、なぜ私たちはこんなにも「オナニーしている」と声に出して言えないのか?もしくは「言えない」ように「されている」のだろうか?
かがみすとたちよ、5件とはあまりに、あまりに少なくないでしょうか?
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こんな風に、発信しないかがみすとたちを責めるような口をきいている私だが(ごめんなさい)、私とて責める権利はない。
本当は小学生の頃から、それをその行為だとは思わずにやってきたのに。布団でゴロゴロとしていて、枕を股に押し付けると、じんわりと気持ちよくなった。それまでもなんとなく感覚で人に言ってはいけない行為だとは気が付いていた。
小5の頃受けた性教育の授業を機に、その行為が「オナニー」と呼ばれることを知った。同時に絶対に隠さなければならない秘密となった。
ここ10年程は、眠れないときの入眠剤となった。オナニーすると心地よくなり、なぜかすやっと眠りにつけるのだ。そんなわけで私とオナニーの歴史はなかなかに長い。
なのに。
彼氏や仲の良い男友達は、ある程度腹を割って話せるようになると、必ずこの質問をしてくるのだ。「女子ってオナニーするの?」と。この質問をされたのは一度や二度ではない。「バンバンしているよ!」と何故か答えられない私は、いつも「する人はするって聞くよ~」と伝聞調で逃げるのだった。
性差のある男友達だけでなく、女友達同士でも私はなかなかオナニーに関してオープンになれなかった。長い付き合いの親友に、オナニーすると打ち明けオープンにできたのは、ここ一年ほどの話だ。
不思議とその親友とは、オナニーの話をするようになってから、より親密になれた気がする。今では実家住みの彼女が、両親が不在のときには「オナニー集中できるね、よかったね」と声を掛ける。「それな!」とすぐに返信が来る。
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オナニーしない、性欲がない、とされてきた女性たち。
それは、女性に性欲があるならば、セックスをお前たちもしたいならば、レイプされても別に文句はないだろう?という圧力と無縁であっただろうか。
また、なぜ恥ずかしいと思ってしまうのだろう。男性は声高にオナニーについて語るのに。
性の不均衡。それは、ジェンダー意識の高いかがみすとたちの中でもまだ強いと気づいたから。
逡巡、迷い、恥じらいその他がないわけではない。でも、ならば、6人目になろう。
いつか私が、そして多くの女性が、匿名やその他大勢の一人でなくても、どんな思考からも「邪魔されず」に、こう発言できる日が来ることを祈って。「女の子でもオナニーするよ」と。
そして、オナニーという言葉を逡巡なく声に出せる男の子である彼氏へ。
安い挑発に乗った結果、このような文章が生まれました。
どう思いますか、次のデートで教えてね。