あのとき、わたしはめちゃくちゃ泣いた。
そして、その日を境に一滴も涙を流さなかった。なぜなのかはわからなかった。
あのときわたしは、久しぶりに人を好きになった。たぶん、4年ぶりぐらい。
彼のプライベートなことは何も知らなかった。だけど、あの手この手を尽くし、好きになってもらうことができた。
そんな彼は何ヶ月もの間、結婚していることをひた隠しにしていた。
たくさん話をして、連絡を取ることも、会うことも、すべてをやめることにした。
やめる日も決めた。最後に一度会って、その日に今までの履歴や連絡先を消すと決めた。
それを決めた日から、わたしは泣き続けた。
毎日、何をしていても悲しかった。
◎ ◎
彼とは仕事に対する考え方が一緒だった。仕事への向き合い方や、どういう思いで働いているか、なんてこともよく話した。人の好き嫌いも似ていた。みんなが嫌っている男の子を「彼は可愛いよね」なんてよく言っていた。
わたしはネガティブな話をたくさんするけれど、それを一度も嫌がることなく聞いてくれたし、彼もわたしに話してくれた。過去の恋愛についても、すべて話してきたし、すべて聞いてきた。
「こんなに理解しあえる人には、二度と出会えないかもしれない」
あのときもそう思ったし、油断すると今でも思ってしまう。
最後の日が来るまで、毎日を泣いて過ごした。そして、最後の日も泣きじゃくった。
次の日もその次の日も、きっと泣いて過ごすのだろう。そう思っていたのに、不思議とわたしは泣かなかった。
◎ ◎
「あのとき泣かなかった理由はなんだろう?」と、今でも思う。
後ろめたさからの解放?
彼とは、最後までセックスはしなかった。だから、不貞行為はない。
だけど、気持ちそのものが後ろめたいことは間違いなかった。
彼と一緒にいることが負担だった?
最後、彼はメンヘラ女子みたいに重かった。LINEを1分も経ってないのに急かしてきたりして、しんどさも感じていた。
次の恋愛に進めるから?
当時、前向きな気持ちでは全然いられなかったし、次の恋愛のことなんて考えられていなかった。
いろいろ考えてはみたものの、どれもしっくりこない。
ただ、わたしは泣かなかった。それは、なんとか堪えたわけではなくて、涙は出なかった。
◎ ◎
ふと思った。
涙を流さないことで、「あの決断は正解だったよ」と、わたしがわたしの身体に教えてくれたんじゃないのかな、と。
実際に、彼と離れたことを後悔したことは、一度もない。連絡を取らないと約束をしたにも関わらず、彼はわたしの連絡先を記憶から復元し、連絡してきた。そして、約束の内容も脳内で都合よく変換し、連絡を取らない約束はしていないとかほざいていた。
ちょっと待って、この間まで二度とこんな素敵な人現れないわとか思ってたのに、めちゃくちゃやばいやつじゃん!
ってなって、さらに涙は遠ざかった。
わたしは、自分の限界に少し鈍感。
「まだ頑張れる。MAXしんどいはまだ先」
そう思って無理をして、身体を壊したことは一度や二度ではない。
「まだ頑張れる」と思っているときには、身体からSOSサインが出ているにもかかわらず、なぜかそのときは大したことがないように感じてしまう。その結果が、適応障害だったり、二次障害だったり、身体症状だったりする。
あのとき、泣かないことで、あの決断が正解だと教えてくれてありがとう。
彼のしつこい連絡は、LINEや電話番号を変えることですべて絶った。すっきりした。
これからも、鈍感なわたしに、わたしの身体はいろんなことを教えてくれると思う。
わたしはそれを信じて、ついていきたい。