「ねえさん、まだEXILE好き?」
数年振りの連絡は、学生時代、バンドをやっていた頃にお世話になっていたライブハウスの店長からだった。当時からわたしの呼び名は、なぜか「ねえさん」だった。
一回り以上も年の離れたスタッフさんにも、ねえさんと呼ばれていた。
そのライブハウスはアリーナ規模のイベントのケータリング等の仕事もしていて、わたしがEXILEファンだと知っていた店長がGENERATIONSの公演のケータリングに誘ってくれたのだ。急な話だったが、その時わたしはちょうど仕事をしていなかったから、二つ返事で「やります!」と言った。
結局、そのケータリングは他の業者が請け負うことになり、携わることはなかったが、わたしが無職と知った店長は、ライブハウスのアルバイトを振ってくれるようになった。
◎ ◎
高校卒業後に、何度か入っていたが、それももう5、6年前。もう知っているスタッフさんはほとんどいなくなっていた。
昔から出入りのある、所謂古株だが、そんなことを知らない若いスタッフの子からしたら年上の新人だ。そんな微妙な立ち位置もあり、久しぶりの出勤は少し緊張した。それでもその子達は受け入れてくれて、話も弾み、ずいぶん溶け込めた。
久しぶりにバンドシーンに触れ、楽しく働けていたので、ほぼ毎週末、夜はライブハウスにいた。
そんなある日、東京でバンドをやっている先輩から数年振りにLINE。
「めちゃくちゃ久しぶりー!明日そっちで企画ライブあるからよかったら来てよ!」
ん?明日?わたし、バイト入ってたな……。
スケジュールを確認すると、その企画ライブの会場は、わたしのバイト先だった。
すぐさま返信。
「お久しぶりです!わたし明日そこでスタッフしてます!よろしくお願いします!」
「まじか!めっちゃおもろいじゃん!よろしくね!」
当時、この先輩のバンドは地元でもかなり人気があり、仲良くさせてもらっていたので、いつも以上にバイトが楽しみになった。
それと同時に、バンドを辞め、夢を追うことを諦めたわたしは、バンドから、そしてライブハウスから距離を置いていたようなところがあったから、少しの気まずさもあった。
◎ ◎
翌日、いつも通り看板を出し、チケットと金庫の確認。ドリンクの補充と買い出しを済ませ、オープンの時間を迎えた。
お客さんの中にも、当時の知り合いがいて、受付では昔話や近況報告など、とても懐かしい気持ちになった。
そして、最後のバンドのステージが始まった。先輩のバンドだ。
どうしても見たかったので、他のスタッフに交代してもらって会場の一番端で小さくなって見ていた。久しぶりに見る、ギターを弾いて歌う先輩の姿は、とても輝いて見えた。
数曲を終えたところで、MC。
「今日はさ、久しぶりに地元で企画だったから、いろんな人に連絡したんだよ。そしたら、みんないつ間にか結婚してたり、子供がいたり……あ〜俺らって大人になっちゃったんだなって思ったんだよね。バンド辞めてった仲間も、俺らは別に裏切られたなんて思ってないし、俺らがバンド続けてるのも正解か分からない。みんな大変でみんな辛い。でも今だけは楽しい時間を過ごそうよ」
懐かしいお客さんも垢抜けて誰だかわからないくらいの人もいたけど、ステージを見上げるその姿は当時の様子に逆戻りしているかのようだった。わたしはスタッフパスを首から下げている間は、スタッフらしく振る舞おうと努めていたけど、今この瞬間は客になりたいと思った。
あふれそうになる涙を堪え、先輩の言葉を胸にしまった。
ずっと、バンドを辞めてしまったことを十字架のように背負い続けてきたけど、そんな必要ないのかもしれないと思った。
◎ ◎
確かにわたし達は大人になった。いや、なってしまった。
それでも、これからまだまだ大人になり続ける。
あの頃、楽しいことばかりではなかったけど、それは思い出として、人生の糧にするべきなんだ。
久しぶりに見た、ライブハウスの景色は、あの時と変わらずに、わたしの背中を押してくれた。