この街に、あなたがいるなんて思えない。
同じ空気を吸って、同じ雨に降られているなんて思えない。思いたくない。
だって、もう会えない。

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最後に別れたのは、とても波が高い夕暮れだった。
「君が怖いよ」とあなたは言った。もうだめだと思った。
自分の人生すべてを捧げるつもりで婚約していた彼と、もう会えないなんて、私の生涯は終わったも同然だと思った。これからどうやって生きていこうと思った。生きていける気もしなかった。 

私から切り出した別れではあった。
でも、いざもう会えないとわかると、とても怖くなった。何をするにも一緒で、彼がいないと私は何もできないとすら思っていた。依存しきっていた。

次の日から、抜け殻のように存在していた。
こんな大変な目にあったのに、相変わらず世界は続いていて、大学にも行かなければいけないから、彼が可愛いと言ってくれた服を着て、彼と手を繋いで歩いた道を歩いて、彼と一緒に揺られた電車に乗って、私は1人で大学に行った。
そこかしこに残る彼の痕跡にいちいち泣きそうになりながら、私は生きた。

もう会わない方がいい、と思ったから、別れを切り出した。でも、いざ1人になると、息の吸い方すら分からなくなって、世界に存在することがとてもとても怖くなった。こんなに私は恐怖に震えているのに、彼はもう助けに来てくれない。一緒だから大丈夫だよって言ってくれない。
会わない方がいいと、別れた方がいいと思ったのは、お互いに共依存しすぎて苦しくなったからだ。これ以上一緒にいたら、結末は心中しかないと思ったから。
ちゃんと自分の人生を生きるために、私たちは別れた。

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ずっとずっと辛かったけれど、少しずつその痛みは薄れて、すべて愛しい思い出だと思えるようにまでなった。彼がいなくても、私はちゃんと生きている。生きていける。
「結婚したら君は何もしなくていいよ、仕事も家事もしなくていい。ただ好きなことをして家にいてくれればそれでいい」。その言葉を盲信して、なにもしてこなかった私。
今ではちゃんと家事ができるようになった。彼が今の私を見たら、とても驚くと思う。

あのね、とても大好きで愛しいあなた。
もし何かの奇跡でまたどこかで出会えたら、今度はきちんと「ありがとう」って言わせてね。今まで甘やかしてくれてありがとうって、あなたの優しさに気付けなくてごめんねって言わせてね。
私ばっかり辛いと思っていたけれど、本当はあなたの方が辛かったよね。たくさん無理して頑張って耐えていてくれたのよね。ありがとう。大好きです。

当てつけじゃなく、本当に心から、幸せになってねって言いたいの。
私をとても幸せにしてくれたあなた。今度はあなたがあなた自身を幸せにしてね。
どうかあなたがよく眠れますように。辛くなく生きていけますように。心から祈っています。