「なあ、もしかして◯学部?」
「うん、あなたも?」
大学時代に1番仲の良かった子に、最初に話し掛けた場面だ。仲を深めていくうちに、カラオケや歌を歌うことが好き、という共通の趣味を見つけた。

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大学1回生の秋には、のど自慢大会の地区予選出場に誘われた。選曲を2人で行い、歌割りは主に彼女が決めた。練習は週に一度、大学の講義終わりに公園で行った。彼女が準備したCDを流し、ボイスレコーダーで歌声を録音して、問題点を指摘し合った。何度も本家のCDを聴き込み、いつも口ずさんだ。

本番は緊張したが、練習の成果は発揮できた。だが、結果は一次予選敗退。結果を聞いた彼女の第一声は「次は各々で参加しよう」だった。
「ごめんね」とすかさず謝った。私の歌唱パートはハモリが中心で、どちらかというと力量不足はメインパートの彼女だが、詫びを入れた。

友情の歯車が狂い始めたのは、彼女に初めての彼氏ができた頃だ。ノロケ話を聞くのは楽しかったが、彼女は次第に、私や友人に対して横柄な態度を取り始めた。
「◯ちゃんは、まだ彼氏いたことないの?」
「経験ないんだっけ?」
恋愛経験が少ない女子にとって、避けたい話題を、ストレートに聞いてくるようになった。彼氏が浮気をしたときには「浮気を仕返してやった」と言い放った。出会い系サイトで出会った人と、出会ったその日に肉体関係を持ったという。

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また、共通の友人と3人で遊ぶ際にも彼氏がついてきた。彼女たちカップルから海水浴に誘われた際には、彼氏から彼女の愚痴を聞かされたり、彼女経由で私の連絡先を聞かれた。
私には理解できないことばかりだった。ついに限界に達し、彼女と仲違いをした。4年間、連絡を取り合うことはなかった。

だが、共通の友人を通じて「あの子は元気なのかな」と、お互いに近況を確認していた。ふと「こんなに気にしているのに、直接連絡を取らないのはおかしいな」と思うようになった。

彼氏と別れた、と噂では聞いているし、彼女への不満も時効かな、と考えた。共通の友人に協力してもらい、3人で会う約束をした。
待ち合わせ場所には私が1番先に着き、次に彼女が来た。一瞬たじろいだが、勇気を出して「久しぶり!元気?」と声を掛けた。「元気だよ」と返された。
私は自ら謝罪した。

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「一方的に怒って、連絡を途絶えさせてしまって、本当にごめんね。連絡を取っていなかった間も、近況が気になっていたよ。仲直りしよう」
よく言った!と思った。彼女は「私、あの頃はどうかしてた。ちゃんと謝ることができなくて、ずっとモヤモヤしてた。あなたが私に会いたい、と言ってくれていることを知って、嬉しかった。謝らなくてはいけないのは私なのに、とも思った。私から連絡する勇気がなかったから、ありがたいよ」。

私たちが打ち解けて談笑し始めた頃、少し遅れて共通の友人がやってきた。
「あれ、もしかして、もう仲直りしてる?」
私たちの様子を見て、瞬時に状況を把握したようだ。
「さっき、仲直りできたよ。仲介役、ありがとう。そしてお疲れ様」
仲違い中の2人の橋渡しをしてくれた友人を労った。
その後はカラオケに行った。私の順番が来た。

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「いつか仲直りしたら、この曲を再びデュエットしたかったんだ」
そう告げると、のど自慢大会の予選で歌った曲を入れた。
「おー。いいね。昔公園で2人で練習した時に録音したもの、たまに聴いていたんだよね」
彼女も、懐かしんでくれた。当時と同じ歌割りで歌った。まさか、またデュエットできる日が来るなんて。忘れられない日となった。

仲直りして2年半程月日が流れ、彼女に対して違和感を覚える部分があり、彼女とは一定の距離を取り、連絡を控えている。
一筋縄ではいかない私たちの友情だが、勇気を出して仲直りしたからこそ、彼女の過去と現在を知ることができた。勇気を出した当時の自分を褒めたい。