私の部屋の片隅にある、白いガーゼハンカチのかかったCD棚。その下には、誰もが想像することができないだろう、私の世界が広がっている。
中毒性のある音響と自己破壊的な歌詞の融合は、たちまち一部の民を狂ったように惹き付ける。v系と呼ばれるジャンルは、表立った自己表現が苦手な人々に多く支持されているのかもしれない。私もそんな一人であった。

きっかけは「ローラの傷だらけ」。YouTubeで音楽鑑賞をしていた私は偶然ゴールデンボンバーが作詞作曲した本曲のPVを試聴した。本PVは重度のストーカーで男が捕まり、檻の中でも被害女性のことが忘れられずにいるという内容になっている。それはまるで恋をするとネットストーカーを唯一の娯楽としてしまう私自身そのものであった。
これまでもJ-POPの中には片思いや失恋等といった切ない恋を歌うものは多くあった。それが多くのファンに支持され、共感を呼んできた。しかし本曲では主人公は明らかなストーカーであり、警告すら響かない犯罪者である。これまで主人公を美化する傾向にあった音楽業界の中では異例の作品であったが、これこそ多くの人に関する恋愛感情そのものだったのではないだろうか。

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私がこの傾向をはっきり自覚したのは、高校生の時であった。
当時女子校に通っていた私は、中学時代に部活動を通して知った、好みの顔をした異性に惹かれていた。知人を通して連絡先を知り一日だけメールをしたが、それ以降音信不通となった。しかし、想いは途切れることなく、寧ろ恋心はそれまで以上に募っていた。
彼の高校を検索すると同級生の前略プロフが表示され、そこから足跡を追って彼の前略プロフを探す。彼はプロフを持っていないようだから、同じ部活に所属する生徒のプロフを覗いて彼の情報をキャッチする。気付いたら有力情報を探すために何十ものプロフを開き、パソコンがそれで一杯になり、彼以外知り合いのいない学校の生徒を何人も覚えていた。
それでも本人に会えないことが寂しく、彼が参加するであろう大会の日、私はその大会を訪れ、彼の学校の生徒が集まる付近に一人立っていた。

「あの子、どうしたんだろうね?」
「中学生じゃない?」
彼の同級生達は次第に私の話を始めた。お目当ての彼は私が惚れた頃から容姿が変わっていたが、折角来たのだからと偶然を装いメールを入れた。返信はなかったが、良くも悪くもこれで終わりとすっきりとした気持ちになった。

その後も彼の同級生に対するネトストを続け、卒業するまで情報を得ることに夢中となった。その後も片思いをしてはネトストをすることが私の一番の楽しみとなり、学校名を検索して同級生を探し当て、そこからSNSを発見して情報を取得し、主のみならず同級生の情報を知ることを楽しむようになった。事実、私が片思いをした相手には、私のことを知る由もない同級生を沢山知っているという共通点がある。

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けれどもそのうちの1つも実ることがなかった。それは私が臆病で、告白しないどころかそういった素振りを全く見せなかったからである。
裏では誰よりも必死にもがいているのに、自分に自信が持てずに何もできない。だからこそ見えない場所で私がその人のナンバーワンになりたいと思ってそういう行動をしたのかもしれない。気付けばなんの進展もないまま、30まであと半年となっていた。

こんな私の気持ちを代弁してくれるのが、v系の音楽である。表ではクラシックと賛美歌しか知らない清楚なお嬢様のふりをしているが、実際私の気持ちを表現してくれているのはこちらの世界の人たちだ。今はゴールデンボンバーではないもっと過激なグループのファンであるが、彼らは根暗なのも、自分に自信がないのも、ネットストーカーも悪くないことを教えてくれた。v系音楽は私に居場所と生きがいを与えてくれた。

深夜1時。両親が寝静まったのを見計らい、私はイヤホンをしてガンガンにv系音楽を聴く。自身の生命を存続させるために仲間の声に耳を傾ける。