時間は楽しい夢を見せてくれるが、時に残酷なものだ。
そう感じたのは去年のこと。
あの日に感じた感情は二度と忘れず、永遠に引きずるものだと思った。
◎ ◎
「もしもし、今大丈夫?」
「うん、今仕事終わったところだよ。急にどうしたの?お母さんから電話なんて珍しいね」
「さっき○○ちゃんのお母さんから連絡があったんだけど、○○ちゃんが事故で亡くなったみたいなの」
「え?」
頭が真っ白になった。
母の言葉を理解できなかった。
今日の仕事が疲れたとか、先輩に対する愚痴とか、晩御飯のことなんて一瞬で消えた。
頭の中に、あの子との思い出が涙とともにあふれる。
その場で泣き崩れた。
◎ ◎
あの子とは高校の部活が一緒だった。
コミュニケーション能力が高く、初対面の私に対して明るく話しかけてくれた。
「中学から陸上してるの?」
「え?あ、うん。中学の時に高跳びしてて」
「そうなんだ!私中学はテニス部だったんだけど、違うスポーツしたくなって陸上にしたんだぁ」
表裏の無い彼女の素直さに惹かれ、すぐに打ち解けられた。
そこから三年間ほとんどの時間を彼女と過ごした。
部活に学校行事、恋バナに花を咲かせたりと、私の青春には彼女が必ずいた。
それは大学生になっても変わらなかった。
お互い県外の大学に進学しても、悩みがあれば彼女に相談していた。
私の中で彼女という存在は支えであり、親友と呼べるものだった。
◎ ◎
そんな彼女の存在は今消えた。
何の前触れもなく、急に。
青信号を歩いていた彼女は、居眠り運転をしていた車に轢かれた。
彼女を殺した奴を恨むよりも先に絶望に襲われた。
どんなに死を嘆いても彼女が戻るわけではない。
そんな簡単なことを理解するのに、どれほどの時間が必要なのだろう。
私を支える柱が折れて、心が崩れていくのが分かった。
彼女の葬式に向かう道中の記憶はほとんどない。
放心状態で向かった式場で見たのは眠っている彼女の姿だった。
泣き崩れる母親、焦点の合わない父親。
これほどに胸が痛い光景はない。
私はこれから親友の死という重い十字架を背負い、支えを失くした心は崩れたまま生きていくのだろう。
彼女の死を一生忘れることなく、あの笑顔を頭に映しながら。
◎ ◎
時間は残酷だ。
彼女の死から一年が過ぎようとしている。
私は今、前を向いて歩いている。
あの日あんなに苦しみ、一生消えることのない傷を心に負ったはずだった。
決して忘れたわけではない。
ただ私の中で生きていた彼女は止まり、新たな環境や思い出、出会いに埋もれていってしまった。
彼女のいない世界に慣れてしまったのだ。
私は薄情者だ。
彼女が生きたかった、生きていたはずの時間を私は当たり前のように生き、恋人や友達と楽しい時間を過ごせば彼女を忘れてしまう。
これから年を重ね、結婚や出産などの大きな出来事を何度も経験したその先で、私の中の彼女はどれほど残っているのだろう。
またあの笑顔で微笑んでくれるだろうか。
彼女を忘れていく私を見て恨み、憎むだろうか。
時間は残酷にも過ぎていく。
忘れてはいけないものと一緒に。