特集:勇気の思い出

退職金は生活費ではなくブランドバックに。未練を思い出にするために

勇気の思い出

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会社を退職して、2年半が経とうとしている。
新型コロナウイルスの影響で大打撃を受けた当時の勤め先から、人員整理を行うと連絡がきた。いわゆる「リストラ」だ。
もちろん会社都合の退職ではあるが、自主的に退職を希望する者には退職金を出すといった内容だった。
退職希望者が想定人数に足りない場合は、会社から解雇宣告される。
自主退職し退職金をもらうか、リストラされないことに賭けるか、どちらかだった。

◎          ◎

退職して不況の真っ只中に放り出されるのももちろん不安だったが、いつ回復するかわからない業界で勤め続けるのもまた不安だった。賭けに負けて、好きだった会社に解雇宣告される可能性ももちろん不安だ。
どちらに転んでも、正解も成功もないのだ。
でも、ものすごく悩んだかというと、実は即決だったような気がする。
女の悩み事は実は答えが決まっている、というどこかで聞いたセリフは本当のようだ。

わたしは自主退職することを選んだ。
そして、わたしはもう会社員には戻らないだろうと、心のどこかで考えていた。

時間ができたので本を読もうと思い、しまいこんでいた本を引っ張り出した。
副業や起業に関する本ばかりだった。現状に満足していたので踏み出さなかっただけで、会社員時代からずっと考えていたことだ。
と言いながらも、良い企業があれば就職しようという思いも捨てきれず就活はしていた。

実際は、就活をすればするほど、働きたい企業なんてなかった。なぜ就活をしているのか、自分でもわからなかった。
安定にしがみつきたいと、思い入れのない会社でも応募してしまう自分に対する矛盾がいやになった。思い入れなんてなかったのに、不合格通知にはいちいち落ち込んだ。
もしも合格していたら喜んでいたのかを考えると、なんのステップアップもできない自分に結局落ち込むだろう。

◎          ◎

なにか始めるならやっぱり今しかない。
そしてようやくフリーランスとして働くための準備を始めた。

なんのスキルもないわたしが「独立したい」なんて、人には言えなかった。
「勉強中」という肩書きがなんとももどかしかった。
未経験のハードルがとても高かった。
周りの成長に置いていかれている自分が怖かった。
初対面の人に「OLです」と嘘をつくことが恥ずかしかった。
好きだった会社への未練が捨てられなかった。
でも、もう決めたことだ。直感に頼って生きることしかわたしにはできないのだ。

退職金で、ルイヴィトンのバッグを買った。
これからのわたしのために、踏ん切りをつける何かが必要だったのだ。
大きな決断の末に得た退職金が、生活費として徐々に消えていくのは嫌だった。

◎          ◎

リストラにあった経験を、フリーランスになるために必要なことだった、良いきっかけになった、なんて言う人がいる。
もちろんそうポジティブに考えた方が、人生が楽しいこともわかっている。
実際、興味はあるのに行動にうつせなかったことに挑戦できている。
それでも、好きな仕事をやめてまで、こんなにも苦労をしてまで、得たいものってなんなのだろうと思うことがある。
仕事内容も、職場の雰囲気も、全部好きだった。自分から手放すなんて、考えたこともなかった。
そんな未練を良い思い出にするために、わたしは退職金を形に変えた。

あのとき踏み出した一歩のおかげで今があるのだと思えるときが来るまで、いつだってわたしの手にはこのバッグがあるのだ。

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