「人生で食べた物の中で、1番美味しかった物は?」と、いろんな人に聞いている。
1つの会話のネタではあるけれど、多くの人は食べ物だけじゃなくて思い出もセット
になっている。その質問の返事はなんだか心が温まったり、その人柄まで出る気がしている。
マックもサイゼリアも大好きで、何でも美味い美味いと食べる私だけれど、同じ質問をされた時に必ず答えるのは「ローマのレストランのテラス席で食べたカルボナーラ」だ。
あのカルボナーラには、今の私に繋がる思い出が詰まってる。

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20歳の時、親友と初めて海外旅行をした。その時に訪れたのがイタリアだ。
何もかも不慣れで日本以外を知らない私たちに、イタリアにある物は全てが新鮮に見えた。バスも電車も時刻表に合わせる気が無いこと、皆ゆるーく働いていること、街中の時計がほとんど合っていないこと、建物がどれも可愛いこと、街中にまるで名画のような絵を描いている人がたくさんいること。
小さなことから大きなことまで、日本で生きる私たちの価値観をガラッと変えてしまうような場面を見てはワクワクし、笑い、ときめき、心が動いた。

イタリアで食べた物は、全てが彩り豊かで美味しかった。駅中で食べたパニーニやフィレンツェで食べたニョッキ、安くて何度も窯焼きのマルゲリータを食べたり、ホテルの近くで食べた謎のケバブもスーパーで買った安い生ハムとベリーニ(桃のワイン)ですら美味しかった。
気に入って何度も飲んだブラッドオレンジジュースはジュースというかもはや果汁で、レジカウンター奥にあるオレンジを絞る機械を見つめる時間まで幸せだった。

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その中でも雷が落ちたみたいに感動したのが、冒頭で話したカルボナーラだった。
「お腹空いてきたしそろそろランチする?」なんて気軽な感じで入ったそのレストランは、有名な観光地のナヴォーナ広場を囲むようにして様々なお店がある中の1つだった。カジュアルで気取らないカフェのような雰囲気のお店で、あえてテラス席を選び広場の景色を見ながらランチをする贅沢な時間。
なんとなく気分で選んだカルボナーラは、見たことないほど黄色くて、卵黄が固まっている部分もあった。主に生クリームを使った白いカルボナーラに見慣れている私は、一口食べた瞬間にビビビッ!と衝撃が走った。

まったりしていてすごく濃厚。広がる何種ものチーズの味。程よく効いたブラックペッパー。存在感がありつつも決して主張しすぎないパンチェッタ。もちもちでよく味の絡んだ麺。
私はあの時初めて、本物のカルボナーラを食べたのだと思う。これがカルボナーラなら、今まで食べてきたものは絶対に違う食べ物で、今まで騙されていたのだと思ったくらい。そのくらい違っていた。
親友が頼んだトマトベースのサラミのピザと交互に食べると、これがまた美味い。美味しすぎる……と幸せに包まれながら、この食事の時間は幕を閉じた。今でも忘れられない、もう一度食べたいのになかなか叶わないからこそ恋しい味だ。

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26歳になった今6ヶ国ほど旅行をしたけれど、初めて訪れたイタリアでの感動は格別だったと思う。無知で若い分、感受性は豊かで何もかもが新鮮で輝いて見えた。
その旅行では失敗も何度もしたけれど、それを上回るほどの素敵な経験が出来た。その1つがカルボナーラとの出会いでもある。
旅をする中で、運命のように惹かれるものはこれからもきっとある。そういうものとの出会いの好奇心を教えてくれたのは間違いなくイタリア旅行で、だから今の私は旅行が大好きで、特に海外には強い関心がある。

私はこれからもあの衝撃を求めて、運命のようにビビビッ!とくる物を探して求めてしまうのだと思う。あのカルボナーラを上回るような出会いをしたくて、旅行の予定を立てるのが至福の時間なのだ。