キラキラと輝く瀬戸内海を眺めながら、私はお休みを手に入れた喜びをかみしめていた。
休職して自由な時間を手に入れた私は、瀬戸内海に浮かぶ島へと旅に出た。

結婚を機に地方に移住した。
見知らぬ土地で何とか仕事を見つけたものの、その仕事が原因で身体も心もボロボロになった。

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個人向けの営業の仕事だったが、売る商品に少しも魅力を感じなかった。
売り上げが達成できなくて上司に怒られるのは嫌だったけど、魅力のない商品をお客様に売るのもまた苦痛だった。
そして何より残業や休日出勤が辛かった。

お客様と商談できるのは、夕方以降や土日がほとんど。
土日休みの仕事なのに、土日も商談のために出かけた。
お客様から「今日仕事が終わったら時間作れる、何時になるかわからないけど」と言われ、待機しなければならないこともあった。
日曜日のカフェで、お洒落した女の子たちを横目に、スーツを着てお客様を待ち続けた。
「私も今日は休日だったはずなのに」なんて悔しい思いは何度もした。
休日出勤は強制ではない。
それでも休日も働かないと売り上げ目標を達成できず、まともなお給料はもらえなかった。
私はお休みを仕事に捧げることで、生計を立てていた。

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「こんな会社、すぐに辞める」と思っていたけれど、辞められなかった理由はただ一つ。
「退職を申し出たら上司から罵倒される」と噂だったから。
小心者の私は「罵倒されたくない」という気持ちだけで、ずるずると仕事を続けた。
しかし1年足らずで限界が来た。
精神科に駆け込み、診断書をもらって休職することになった。
お医者さんの力を借りて、ようやくお休みを手に入れた。

それから、私のお休みは変貌を遂げる。
休職期間がスタートしてすぐに、ずっと行ってみたかった香川県の直島・豊島へ行った。
会社用携帯を持たずに旅に出られるなんて、夢のようだった。
見知らぬ土地でフェリーに乗るのはわくわくした。
太陽に照らされて瀬戸内海がキラキラまぶしかった。
有名な美術館に行って、素敵な作品に出会えた。
一方でよく意味がわからない作品もあったけど、それも美術館の醍醐味ということにした。
ふらっと立ち寄ったカフェの店員さんが、おすすめの場所をいろいろ教えてくれた。
香川の讃岐うどんが美味しくて、感動した。
仕事のことなんて一切頭に浮かばず、ただ目の前に起こる出来事を楽しめるのが幸せだった。

休職期間は4か月にわたった。
暇なので、先の直島・豊島旅について記事を書いてサイトに投稿してみた。
同じく旅が好きな人からのリアクションがたくさんあって、嬉しかった。
これを機にすっかり文章を書くことに味を占めた。
今は文章に関わる仕事を見つけて、楽しく働いている。

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そして休職中にもう一つ始めたのが、登山。
これはもう生涯の趣味になりそう。今の仕事を頑張れているのは、お休みに登山に行くという楽しみがあるからだ。
登山はもちろんしんどいし疲れる。晴れた日は日差しが暑いし、雨の日は濡れてわずらわしい。
夏は暑くて汗をかくし、冬は寒くて体力を奪われる。
それでも厳しい自然の中で、生きていることを実感できるのがやみつきになる。
今の仕事は楽しいけれど、室内で一日中パソコンの前に座っているのは、なんだか生き物らしくない。
だからお休みの日は山へ行って、思いっきり深呼吸して、生きている感覚を手に入れる。
良い趣味を手に入れたおかげで、平日のお仕事も上手くやれている。

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会社と首の皮を一枚つなげるためだけに、お休みを仕事に捧げていた私。
今思えば、なんて馬鹿馬鹿しいんだろう。
貴重なお休みは、好きなことに投資するべきだ。
会社に捧げるよりもリターンが大きい。
お休みの過ごし方ひとつで、仕事もプライベートも豊かになる。

これからもしも誰かにお休みを奪われそうになったら、今度は正々堂々と立ち向かってやる。
私のお休みはそんなに安くない。
お休みを奪われるのは、もう二度とごめんだ。