中学3年生の夏休み、私は学校が用意した希望参加の特別プログラムで、ニュージーランドにて2週間のホームステイを体験できることになった。

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ホストファミリーの家族構成は、学校から予め知らされた。ホームステイの事前準備と書かれたプリントに、「必ず手土産を用意しましょう」との記載があり(人様のお宅に泊めてもらうので今考えれば当たり前のことなのだが)、アンパンマンのメモ帳や、立体パズルなど、年齢に合わせたお土産を一人ずつに買った。

オークランド空港から、研修地のあるマタマタへ移動し、遂にホストファミリーとの対面の時間になった。そこで、私の受け入れ先の家族が急遽変更になったと告げられる。
始めから突然のイレギュラーに内心動揺した。せっかく買ってきたお土産はどうすれば……。

迎え入れてくれたのは、ホストファザーとホストマザー(以下、お母さんとお父さん)、18歳のお姉さん、16歳のお兄さん、8歳と5歳の妹という家族構成で、他に大型犬を1匹と猫を2匹、馬を1頭飼っている家庭だった。一人っ子の私からすると、期間限定とはいえ、こんな大家族の一員になること自体、新しい経験だった。

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もともとかなり低年齢の子どもがいる家庭を想定していたので、不安を抱きつつお土産を渡すと、そんな心配をよそに妹2人は「Cool! Cool!」と喜んでくれた。お姉さんは日本語を勉強している最中らしく、持っているSMAPの「世界に一つだけの花」のCDを見せてくれた。お兄さんはあまり見かけることがなかったけれども、かっこよく、時々優しく声をかけてくれた。家庭内でたったひとりの外国人である私に、家族の誰もがとても温かかった。

幸い私には食べ物の好き嫌いがなかったものの、食に関するカルチャーショックは総じて大きかった。

朝は4種類のシリアルが、1リットルはありそうな容器にそれぞれ入って卓上に用意された。夜は、食後に業務用サイズのアイスがこちらも4種類ほど並べられ、みんな好きな物を好きなだけすくって自分の皿に盛った。

朝も夜も出てき方が豪快だなぁと思いつつも、いかにも異国の食文化という感じで、これはこれでワクワクした。基本的に野菜が出てくることはなかったが、もともと私はサラダがそこまで好きではないので、特に問題はなかった。2週間ずっと米を食べられなかったのが唯一辛かったことで、自分がJapaneseであることを再認識した。

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平日は毎日学校に通った。お母さんが用意してくれるお弁当は、大きめのタッパーにサンドイッチと大量の市販のスナック(日本でいうソイジョイやカロリーメイトのようなもの)が隙間なく詰められたものに加えてりんご丸々1個という、なかなか迫力のある見た目だった。
大家族ともなると、毎朝子どものお弁当を用意するだけでもひと苦労なのだろう。りんごを丸ごと食べたことはなかったので、指の間から果汁が垂れて、初めはなかなか慣れなかった。

週末はホストファミリーとの時間を過ごす旅程となっていた。
土曜はお父さんが、妹ふたりと一緒に仕事場に連れていってくれるとのことで、牧場へ向かった。お父さんは慣れた仕草でトラックの荷台のようなところに馬を乗せて(馬を飼っているのはその時に知った)、私は妹ふたりに挟まれ後部座席に座った。振り向けばすぐ後ろに馬が収まっていて、まさか馬と一緒に車に乗る日が来ようとは、とまたしても衝撃だった。

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運転しているお父さんと他愛のない話をしていると、隣でりんごを齧っていた妹の年上のほうが、「Kurumi(私の名前), Look!」と言うなり、走行中のトラックの窓から食べ終えたりんごの芯を投げ捨てた。周りは何もない草原なので、投げても人に当たることはない。日本の住宅街での生活しか知らなかった私には信じられない光景だったが、妹ふたりがあまりにも楽しそうに笑うので、私も釣られて笑った。

日曜は、家族全員でキウイ狩りに行った。ニュージーランドといえば、やはりキウイである。
幼少期、日本で梨狩りに行ったことはあったけれども、キウイ狩りは初めてだった。食べ頃のものを見分けるコツを教えてもらい、木の枝からもぎ取る。少し力を入れると、思っていたよりも簡単に割れた。軽く皮を剥いて、その場で味わってみる。

今まで日本で食べたどんなキウイよりも美味しかった。もはや別物だとすら感じた。
この国に来て驚くことは数え切れないほどあった。とはいえ、まさかキウイなんかに(と言うと失礼だけれども)ここまで感動するとは思いもしなかった。帰りにマクドナルドへ寄って、「キウイバーガー」というメニューがあることにまた驚いた(注文する勇気はなかったが……)。

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ニュージーランドと日本で、食材自体が大きく異なることはないようだった。豆も肉もりんごもシリアルもアイスもフィッシュアンドチップスも、調理法や提供されるサイズは違えど、知っている味だった。ただ、キウイだけは明らかに違った。日本に戻ってきてから食べたキウイは、やはり「何か違う」物足りなさがあった。思い出補正も多少はあるのかもしれないけれど、あれ以来、私は少なくとも国内で自分からキウイを買うようなことはなくなった。

お別れの日、家族は手書きのメッセージと、お土産を手渡してくれた。お父さんは絵も描いてくれた。その時に貰ったキウイ(鳥)のマスコットやぬいぐるみは、今でも実家の部屋に飾ってある。

Facebookやスマートフォンなどなかった当時、携帯電話のキャリアメールアドレスしか個人連絡先を持っていなかった。あの時のホストファミリーが何をしているか、今となってはもはや知る由もない。それでも彼らが与えてくれた様々な驚きや喜びは、あのキウイの味と共に、大切な記憶としてこれからも私の中に残り続けるだろう。