大学1年生の夏、わたしは高校時代の友人とともに、1週間のイタリア周遊ツアーに参加した。
彼女とは高校生のときから「いつかふたりでイタリア旅行に行きたいね」とよく話していて、高校を卒業してすぐ始めたアルバイトで貯めたお金で、思い切ってツアーに申し込んだのだ。

関西国際空港で飛行機を待っている間に、「絶対日本食が恋しくなるから!」と空港内のお好み焼き屋で食事。1週間日本を離れる直前に食べる日本食として寿司や天ぷらではなくお好み焼きをチョイスしてしまったのは、関西人の性だろうか。

カタール空港での乗り継ぎも含め、約17時間にも及ぶフライトの疲れも何のその、初めてイタリアの地に降り立ったわたしたちは有頂天。
ベネチアの運河に面した可愛らしい街並み、フィレンツェの華やかで洗練された雰囲気、ローマの街なかで月明かりに照らされる荘厳な佇まいのコロッセオ……目に映る全てが美しかった。

◎          ◎

そんな美しい景色と同じくらい……、いや、それ以上にわたしたちの心を踊らせたのが、イタリアのグルメだった。ピザやパスタはもちろん、真夏だったこともあり毎日のようにジェラートを買い食いした。

本場のイタリアングルメを堪能する中で驚いたのは、イタリアでは前菜としてピザをひとり1枚食べるのが当たり前だということ!
きのこがたっぷりのった巨大なピザをなんとか食べ終えたあとに「さぁ、メインディッシュだよ!」と、これまたボリューミーな白身魚のフライが出てきたときは、「イタリア人の胃袋どうなってんの!?」と衝撃を受けたものだ。
とはいえイタリアで食べたものはどれもおいしく、海外旅行あるあるの「日本食が恋しくて早く日本に帰りたくなる」という現象が全くと言っていいほど起こらなかった。
毎日のようにいくつもの観光名所や美術館を歩き回っていたこともあって、食事の時間にはお腹がペコペコ。毎回の食事が楽しみで仕方なかった。

◎          ◎

1週間はあっという間に過ぎ、イタリアで過ごす最後の朝。その日は出発までフリータイムだったので、わたしは友人とふたりで朝食を食べる店を探しながらローマの街をぶらついていた。
湿気の多い日本と違ってイタリアの空気はカラッとしていて、真夏でも朝は涼しく過ごしやすい。しばらく歩いていると小さなピザ屋を見つけて、わたしたちはそこで朝食をとることに決めた。

店内のカウンターでアンチョビのピザとスプライトを注文し、店の前に並べられたこじんまりとしたテラス席に腰掛ける。すぐに運ばれてきたピザを食べながら、「あっという間だったね」「まだまだ帰りたくないねぇ」としんみりしていると、店主の男性が「君たちはどこから来たの?」と英語で話しかけてくれた。

イタリア人はさほど英語が得意ではない人も多く、彼らの話すゆっくりとした英語は日本人のわたしたちにも聞き取りやすい。わたしたちはカタコトの英語(というか、ほぼ英単語)で日本から来たこと、今日帰国することを伝えた。

◎          ◎

すると彼はわたしたちの目をまっすぐ見つめながら、ゆっくりとした英語でこう言った。
「もし君たちがまたイタリアに来ることがあったら、必ずここに戻ってきてまたピザを食べてね。OK?」
今出会ったばかりの外国人にこんなにも温かい言葉をかけてくれる彼の優しさが嬉しくて、わたしたちは感激しながら何度も頷いた。彼に限らず、街ですれ違うと「ジャパニーズ!カワイイネ~愛してる!」と日本語で声をかけてくれたお茶目な男性たちも、レストランで目が合うと自然とウィンクをしてくれたチャーミングな女性たちも、イタリアの人々はみんな温かかった。

名残惜しい気持ちとともにピザを噛みしめると、アンチョビのしょっぱさがやけに胸に沁みる。最高においしい朝ご飯だった。