親の反対を押し切ってまで就いた美容の仕事は、どうやら私には合わなかったようだ。正確には「女の職場」が合わなかったのだ。
憧れていた華やかな世界。でも実際は精神的にも肉体的にも辛く、昔抱いていた美容業界への憧れと好奇心は、もう微塵も残っていなかった。
「好きなことを仕事にするより、好きなことは趣味で楽しもう」
そう決意して辞表を出した時、美容業界にも接客業にも全く未練はなかった。

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27歳の挑戦。不安を抱えながらの就活。大丈夫。私ならなんとかやれる。私が私を信じないでどうするんだ、と自分に言い聞かせる。
ぼんやり眺めていた求人サイト。いい求人に巡り会えないストレスからか、だんだんヤケになってきた。
「あー、もうなんでもいいから何かないのか!」
一気に画面をスクロールする。勢い余って何かボタンを押したらしく、新着一覧へ飛んでいた。

「未経験歓迎!広告代理店で事務業務」
そう書かれていたタイトルになんだか惹かれた。接客業以外の仕事に就こうと考えていたため、デスクワークの仕事を探していたのだが、広告代理店で働くことは考えていなかった。広告代理店のイメージといえば、すごく忙しそうとか、仕事ができる人しかついていけないとか、とにかく大変そうだと思っていた。
でも、ずっと就きたいと思っていた美容で辛い思いをしたということは、逆に今まで経験がなくて、働きたいと思ったことがなかった業界なら意外と続くんじゃないか?黙々と作業するのは好きだし、なにより土日休み。
よし、あえて下調べせずに面接申し込みをしてみよう。
そんなことを思ったのは、求人ページを一度見終えてすぐのことだった。好奇心旺盛な性格が役に立った瞬間である。
この時の選択を、私は今でも「本当によかった」と思っている。
数日後、面接を終え、無事に内定を頂いた。

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初めての業界。メインは入稿や経理関係だが、趣味でエッセイを書いていることを話したところ、時々ライティング案件も任せてもらえるようになった。文章を書くことは好きだが、仕事を通して行うことは今までなかったため、「自分にしかできないこと」を任せられたようで、なんだか嬉しかった。
自分のペースで仕事ができる喜びとやりがいを、私は今の職場で知った。確かに広告代理店はとても忙しいが、それ以上にスキル向上をしっかり感じられるので、成長の喜びが大きいのだ。

そして何より職場の雰囲気の良さ。それぞれが支え合い、メリハリをつけて働く姿は、尊敬であり、絆の強さを感じる。安定した休日も本当に有り難い。平日は家と職場の往復ではあるが、全く苦ではない。むしろ、職場に行くのがとても楽しい。
さまざまな案件を任せてもらえること、みんなで笑い合えること、自分の成長を感じられること。プライベートも仕事も楽しみたい私にとって、こんなに合う職場が見つかったのは奇跡だと思う。思い切った行動が、幸せな未来になった。

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苦手なイメージを抱いていた広告代理店で、まさか自分が働き、そしてハマってしまうとは。人生何があるか本当にわからないものだ。
万が一何か無い限り、私はこの会社をこれからも続けていくだろう。だってこの仕事は、私の支えであり、生き甲斐だから。