私の母方の親戚に、居酒屋を営んでいる従兄がいた。
結婚した奥さんと二人で立ち上げた居酒屋は、親戚が集まる時の会場でもあった。
私は親戚の中では最年少で、唯一未成年だった。
酒のつまみになるようなものが多い居酒屋のメニュー。
当時中学生だった私が好きなメニューは少なかった。

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大人は、既にお酒が入っていて、楽しそうに話している。
少しずつ声のボリュームが上がっていく宴会ムードは、少し苦手だった。
「焼きそばだったら、食べれるでしょ?」
そう発言した従兄。何を食べるか決め切れていなかった私は、従兄の言う通りにした。
「おじさんたちは酒が入ってるから、たくさん食べないけど、〇〇ちゃんは大盛りでいいよね?」
確かに私はどちらかと言えばよく食べる方だったし、親戚一同もそれを知っている。
居酒屋の食事、というのはどこか量が少ないイメージがあったので、私はそれで頷いた。
暫くして、運ばれてきた焼きそばは、予想していた量より少し多くて驚いた。
食べられない量ではなかったけれど、その迫力に少しだけ気圧されてしまった。

母親が作る焼きそばは、どちらかと言えば味が薄いタイプで、私はそれも好きだったが、どちらかといえばソース味の濃いタイプの方が好きだった。
そして、従兄のやっている居酒屋で出てくる焼きそばは、ソース味の濃いタイプだった。
久々に食べた味の濃い焼きそばに、私は箸が止まらなかった。
熱中して食べていた、という言葉が一番正しいだろうか。
焼きそばを食べていた時の私は、宴会モードの騒がしさなど気にならない程だった。

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そんな様子を親も見ていた様で、それ以降も誕生日などに従兄の店から焼きそばをテイクアウトして、買ってきてくれるようにもなったのだ。
隣町にある従兄の店は、家からかなり距離が離れていて、気安く行ける場所ではなかった。
しかし、時たま母親が買ってくる従兄の店の焼きそばは私にとって特別なものだった。
むしろ、なかなか食べられないからこそ、特別だと思っていたのかもしれない。

実家を離れ、一人暮らしを始める。それに伴って自炊も始めた。
自炊にも慣れてきたあの日、ふと、従兄の焼きそばの存在を思い出し、焼きそばを作ることにした。
特別な調味料を使っていたのか、分量が違うのか。
あの日食べた味とは違う、美味しい焼きそばが出来上がった。
自分の好みの味であることには違いなかったが、どうもあの味ではない。
出来立ての焼きそばを食べながら、私はまた従兄の店に行きたい、なんて考えていた。
次行くときは、20歳になってから。居酒屋を充分に楽しめる年になったら、またあの店を訪れて、あの特別な焼きそばを食べたい。
そう思いながら、自分好みの味の濃い焼きそばをまた口に運ぶのだった。