私がまた食べたい味は、勤務先の先輩と作った料理の味だ。

私は、今年の4月に社会人になったばかりの新卒社員だ。
入社した会社で2ヶ月の研修を行った後に配属先で働くことになるのだが、私は派遣として働く部署に配属されることになった。
しかも、同じ配属になった同期がいない上に上司は数人しかおらず、その上司は同じ業務をするわけでもないため、孤独を感じていた。

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そんな配属先で出会ったのが、派遣先の会社の男性社員(以下Tさん)だ。
Tさんは配属後の研修や実務での教育をしてくれている。初めは厳しそうな人だと思って仕事以外で話すことはほとんどなかった。しかし、残業後の雑談で家が近いことや趣味の話が合うことがわかり、よく話すようになった。

好きなゲームをおすすめしあってインストールしたり、フレンド申請をするためにとLINEを交換したりした。仕事の休憩中や退勤後、休みの日にLINEをし、Tさんのことを知っていくうちに彼のことが好きになっていった。

自分の気持ちに気づいて少し経った頃、Tさんから料理を教えてほしいと言われた。
最初は冗談だと思って軽く流していたが、私が作った料理の写真をTさんに見せたことがきっかけで一緒に料理をすることになった。

日程調整をしているときも、当日の予定を決めているときも心は舞い上がっていた。
学生時代は親が厳しいせいで友達の家に行くことすらできなかったため、知り合いの家に遊びに行くというイベントが発生しただけで嬉しかった。その相手が好きな人ならなおさらだ。

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普段から自炊をして料理は慣れているとはいえ、Tさんの前では失敗できないと思い、ネットでレシピ動画に片っ端から目を通した。
当日作る予定のメニューはハンバーグ。「何食べたいですか?」と聞いたときにハンバーグと返ってきて、子供っぽくてかわいいと思ったのを覚えている。
ひき肉と調味料を混ぜて成形した後に焼く。それだけの手順なのに、何時間もレシピを調べていた。

予習をばっちり済ませ、迎えた当日。
近所のスーパーであれこれ相談しながら買い物をしたり、買いすぎて3つになった買い物袋をTさんに持ってもらう、なんてくだりがあり、そのたびに幸せな気持ちになった。
結局、スーパーで買い物しながら色々買い込んでいるうちに、ハンバーグ、豚汁、きんぴらごぼうの3品を作ることになった。

きんぴらごぼうに関しては、いつも材料を下茹でしてから作っていたため、本来の炒める作り方を知らなかったが、なんとか作ることができ、内心ひやひやだった。
ハンバーグは牛乳を入れすぎて水分過多になってしまったし、豚汁は完成間近で材料の入れ忘れが発覚。慌ただしい調理をして、昼過ぎには始めたはずの料理が、終わったのは夕方だった。

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お腹すいたから早く食べようという先輩と、作ったご飯を食べた。
正しいレシピで初めて作ったきんぴらごぼうも、水分のせいで柔らかくなったハンバーグも、意外においしくできた豚汁も、どれも美味しかった。

誰かと作って一緒に食べる経験自体初めてだったのもあり、その日のことは忘れられない思い出になった。
あの日から、先輩と作った3品を作る機会が格段に増えたが、それはまた別の機会に。