大学生の1回生の時。忘れもしない2回生にあがる前の冬休み。私は大学と家の往復に加えて、ある劇団にてお手伝いとしてボランティアを行っていた。そのボランティアの環境がなかなかに劣悪で、手伝って当たり前の空気の中、新参者の私は相撲界の可愛がりのようにこき使われていた。

ただ、1度引き受けると言った身。公演が終わるまでは何とか我慢してニコニコと手伝い続けた。で、その千秋楽が終わった瞬間、こう思った。
どこか1日では帰ってこれない場所に行きたい、と。そして私は人生で初めての一人旅を突発的な感情に任せたまま企画した。

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心配性の父母はどうにか諦めてもらおうとしていたが、私は一刻も早くこの環境から離れなければならないという謎の使命感があって、北か南かで悩んでいた。
寒い季節だったので安直に選んだのが沖縄。2泊3日。「沖縄行ってくる」と父に宣言すれば、諦めた父が「じゃぁ、何かしてきたら?」と助言をくれたので、あの劇団の場所から少しでも離れる場所を思案した結果、海の中という答えになった。

ギリギリダイビングが出来る季節で、私はダイビングの一番初級のライセンスを取ることを決めた。旅行前にまさかの座学が必要で、近くのダイビング専門店で勉強をさせていただき、その次の日沖縄へ飛んだ。
ちょうどその日は劇団の打ち上げの日取りと重なったのだが、全く迷うことなく沖縄へ。

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初の一人旅、初の沖縄、初のダイビング。初物だらけの私は、ダイビング以外の時間は右往左往を体現したかのような足取りで沖縄を歩いた。ウロウロと首里城を周り、ソワソワと国際通りを徘徊した。

1人で外を歩くのも慣れてない超インドアの私は、人の目が気になって気になって全く楽しめない!こんなところでインドアの弊害があるとは……!
でも困ってる風を出したくなくて、気になったお店や元来た道を戻るなど出来ず颯爽と、さも知っている風に歩いた。だから気になったお店とかちゃんと見れなくて無念。

極めつけと言えば夜、オシャレかなと思ってバーに入ったんだけど、元々お酒は飲めないしお金をかける気も無かったので、バーテンの人をかなり困らせた自信がある。酒飲めないのに何で来た?と思われたくなくて、水色の美しいカクテルを頼んだけど。あんまり味は覚えていない。

それよりも薄暗いカウンターの隣に恐らくダイバーである屈強な男性2人が飲んでいて、「昨日サメがめっちゃ近くまで来て」だとか「動いたら噛まれるから」とか何やら恐ろしい話をしてて、「あの、私今日初潜りして明日も潜るんですが、そういう場合どうすれば……」って聞きたかったけど、昼間から誰とも話してなくて変に声が上ずりそうだったし、急に挙動不審の若い女に声かけられても困るだろうと小さくなって、話をところどころ聞くにとどまった。

その後あまりにも自分が場違いな気がして、そそくさと立ち上がって店を後にしようとして、お金払うの忘れてて呼び止められるというなんとも格好が悪い思い出となってしまった。

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ただ恥も大いにかいた旅だったけど、ダイビングは神秘的な経験だったし、海が嫌いでも潜れるもんだなと学んだ。
そして私は案外どこにでも行けるんだと分かった。行ったところで、楽しめる様な器の大きさはなかったけど。

今はどうだろう。是非リベンジしたい。