文章を書くことが好きだ。
好きだと思えることなんて私の中にそうないけれど、文章を書くことだけは昔からずっと好きだ。けれど、そう気づいたのは最近だ。

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中学生の頃、秘密のノートがあった。
誰にも言えない気持ちを書きなぐるだけのノート。
そのノートは誰かに見つかるのが怖くて、いつも1冊使い切ると燃やしていた。
私にとって文章とは誰にも見せない、自分の中で完結するものだった。

その頃、周りの子達は自分を表現するために流行りだしたSNSを始めていて色んな言葉を発信していたけれど、私はアカウントを作ることさえ出来なかった。
自分の内にある気持ちを誰かに見せることが怖かった。

そんな時、携帯小説というものが流行った。
誰もが小説を書いたり、読んだりできるサイト。
文章を書くことは怖くて出来なかったけど、たくさんの小説を無料で見られるのはお金のない学生にはとても魅力的で暇さえあれば読んでいた。
どんなに嫌なことがあっても、悲しいことがあっても、サイトを開けば違う世界へ連れていってくれる。
学校にも家にも居場所がなくても、違う世界へ行ってしまえば関係ない。
逃げ込むように、縋るように、そのサイトを開いた。
そして、いつしかそこが私の居場所になっていた。

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社会人になって、そのサイトのことは忘れるようになっていた。
しかし最近、20代の懐かしいコンテンツとしてそのサイトが取り上げられるようになっていると聞いて、思い立ってそのサイトを開いた。
サイトは今も変わらず存在していて、ほっとする。
そして、それと同時に学生時代の頃の気持ちがぶわっと蘇った。
あの頃、本当にしんどかったよなぁ……。

苦笑いをこぼしながら画面をスクロールすると、やはり今も学生向けといった感じで若い学生と思われるコメントで溢れていた。
それを見た時、ふと私もここで小説を書こうと思った。
ここにくる子達の中には、当時の私みたいな子がいるんじゃないか。
現実世界が息苦しくて、どこかへ逃げ込みたいと思っている子が。
そう思ったら居てもたってもいられなくなった。

あの頃の自分に言いたかったこと。
それは貴方は独りじゃないよってことだ。
大丈夫だから、泣かないでって言ってあげたかった。
だから、今そんな子が居るのなら、その子の逃げ場所になれるような文章を書きたいと思った。
文章の力ならきっとそれが出来る。
学生時代、私自身がそれで救われたのだから。

そして拙いなりに書き始めると、コメントがつくようになった。
「この話が好きです」
「主人公が大好き」

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その後、小説だけでなくエッセイを書くようになると、
「この話で救われました」
そんな嬉しいコメントがついた。
誰かに届いたんだと思ったら嬉しくて泣きそうになった。
私の文章で誰かに寄り添うことが出来たのかもしれないと嬉しかった。

ずっと文章を書くことは自分の逃げ場所を作ることで、内々で行う行為だった。
けれど今度は誰かに伝えたい。
救うなんてそんな大層なこと言えないけれど、貴方は独りじゃないよと、だれかの居場所になれるような文章を。
私も今まで沢山の文章に救われてきたから、今度は私がそういう文章を作りたいと思う。