私は100万円の使い道を、一種のラブレターと捉える事とする。仕事で汗水垂らして腹痛に襲われながらも休まず働いた給料ではなく、誰かが私が幸せになるように、と願いをこめて贈ってくれた100万円なら、ラブレターとして好きなものに捧げたい。100万円には夢と希望が詰まっている。

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私は鉄道が好きだ。月に1つは、乗る電車を決めて旅行に行く。土日を使う為、遠出が出来ず、仕事も休めず、お金の余裕もない為、長旅は出来ない。しかし、100万円によって、余裕がもてた。このお金でまず行くところは九州だ。
私には父を「或る列車」という九州の電車に乗せたい、という夢がある。テレビや雑誌でそれを見るたびに、「いつか乗りたい」と言うのが父の口癖だ。私も或る列車には興味があった。

或る列車は九州を走る黄金色の列車である。車内は金色でロイヤルな雰囲気だが、クラシカルで少しレトロを感じる作りになっている。
シェフが振る舞う料理付きで約4万円、父と二人だから8万円。地元から博多駅まで電車や飛行機を乗り継いで約4万円、往復で8万円。これも二人で約16万円。トータルで最低でも24万使う計算になる。
或る列車は木造である。木のぬくもりを感じながら博多から由布院間の約3時間を、車窓から見える景色を楽しみながらゆったりと過ごしてみる。

いざ目の前に100万円を出されたら、まずは父の願いを叶えてあげたい。そして私も初めての九州旅行で素敵な思い出を作りたい。これは私が父と「或る列車」そして九州に捧げるラブレターである。

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次は実家の猫の為に、快適に過ごせるよう家を改築したい。前から猫が歩ける棚や、猫専用の部屋に憧れがあった。
愛おしくて甘やかした結果、肥満体系になってしまった。少しでも長く健康でいてほしい。壁のあちこちを歩けるようにキャットウォークや、ハンモック、猫ちぐらを付けたい。あと、猫が日向ぼっこできる1畳ぐらいの猫専用部屋も作りたい。
あまり改築しすぎると親に怒られる為、軽く見積もって30万円としておく。30万円が愛猫に捧げるラブレターである。

残り約45万円。北海道に旅に出る。一生に何度行けるか分からない場所である為、悔いなく旅行したい。
北海道では、ノロッコ号に乗車する。大自然の中をノロノロと縦断するから「ノロッコ号」らしい。幸いノロッコ号は二つあり、緑溢れる釧路湿原とラベンダーが咲き乱れる富良野の景色をノロッコ号から眺望したい。次に「SL冬の湿原号」に乗車する。客席が丹頂やエゾシカなど、北海道ならではの動物をモチーフにしたものになっており、レトロでもあり、おとぎ話のような空間になっている。真っ白い銀世界の中を、黒煙を立ち込めて走る姿も、目に焼き付けておきたい。
最後は岩手に降り立つ。人生でどうしても「SL銀河」に乗りたい。宮沢賢治の物語に感銘を受け、憧れ、SL銀河に辿り着いた。宮沢賢治が描いた世界や、岩手で宮沢賢治が見たであろう景色を見に行きたい。もしかしたらこの経験によって私の人生は大きく変わるかもしれない。これは私が今後の自分の人生の為に捧げるラブレターだ。

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大学生の時、人生で初めてバイトを始めた。最初の給料は手渡しだった。
長封筒からちゃりんちゃりんと小銭の音がする。期待を膨らませて封筒を開くと、8万と数千数百数十円が入っていた。働く事の大変さを学び、汗水たらして働いたお金は、人生の糧に変わっていく事に気付いた。そしてお金は今を楽しむ道具だと周りが教えてくれた。

ラーメンズのコントに「100万円」というコントがある。クイズ番組で100万円が貰えなくても平気だと言ったり、犬に100万円を食べさせようとしたりと、様々な事をしている。
当時学生だった私は、もし100万円の束を手に入れたら、ラーメンズの二人のように、自慢したり、飾ったりして高揚感に浸ると思っていた。

現実、そんな事を考える暇もなく、今後の人生が気になり貯金に回してしまうだろう。だが、この100万円は私が、誰かや何かに捧げるラブレターだと決めた。
でも100万円を持って、これは言っておきたい。
「金は天下のマーライオン!」