「女は結婚したら旦那さんの収入で生活をするものだから、既婚女性の給料が下がる」

そう聞いて唖然とした。今から約30年前、祖母が入信していた宗教団体に勤務する女性の話だ。独身ならば自分ひとり分の食い扶持だけで充分。けれども結婚・出産となると、むしろお金はもっと必要になるのに。
この話が出るたびに、何度もいい返してきた。が、祖母も母も「子どもの言うこと」と、真面目に取り合わなかった。

同じ頃、「大人になったら何になるの?」と訊かれると、周囲は「お嫁さん」と元気よく答えていた。その答えに大人は満足そうに頷く。
どうせその場だけの会話にすぎない。他愛ない言葉で、近所の人や親戚が喜ぶのであれば、それはそれでいいではないか。
しかし、私にしてみれば「お嫁さん以外なら何でもいい」。これが本心だった。
「何て生意気な子だろう」と、あきれられるが、どうしても譲れない。

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この国は男性に比べて女性の賃金は低い。それも圧倒的に。にもかかわらず、女だというだけで家事・育児・介護など、本来ならば性別に関係ないはずの細々とした役割を無言で押し付けられる。おまけに少しでも難色を示すと、「気難しい女」のレッテルを貼られる。

いったん、やりにくいと思われると、さらに風当たりが強くなる。だからポーカー・フェイスで、いやいや、にこやかに引き受けていた方がラク。
……このように数十年、数百年も女たちは耐えてきた。そして「私が辛抱したのだから、若い人が我慢しないなんて許さない」と無言のプレッシャーを与えるようになる。本当にそれでいいの?いくら水を向けても、みんな困った顔をするだけ。

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私が女性こそ経済力が必要と考えるのには、強い理由がある。両親の結婚の失敗を目の当たりにしてきたからだ。

「次の(お見合いをした)人と結婚するから、お母さん、もう黙って!」
20代半ばにさしかかった母は、その母(私にとっての祖母)に何度もなんども、結婚をせかされた。大正生まれの祖母は「女は家にいて夫に尽くすのが幸せ」が口癖だった。

が、それは表向きであり、実際のところは「娘が独身だと恥ずかしい」。こちらが本心だろう。勝気な祖母に「早く」といわれ続けた母は、仕方なく永久就職をした。
すぐに妊娠し、私と妹が生まれる。母が白といえば父は黒と答える。私がひとりでいると、母は父の悪口を、父は母の悪口をそれぞれ垂れ流した。子ども心に「父と母はなぜ結婚したのだろう」とずっと不思議だった。

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母は、手に職があるわけでもない。
「離婚して子どもを育てるのは現実的に無理」
「じゃあ、どうしてもっと考えて結婚しなかったの?」
「結婚が親孝行だから」
「娘が不幸になることが、親孝行なわけ?!」
小学生の頃から現在まで、母と何度そんな会話を繰り返してきたか。

そんな両親を見てきたのだから、子どもは、さぞ自立精神あふれる人になったよな。そう思われるかもしれないが、私の年収は7桁に届かない。よってひとり暮らしをするだけの余裕はない。

ようやく社会保険適用の仕事に就いたはずだが、ある時から会社の事情で月16日を超えて勤務ができないことになった。

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転職をしなければならないが、不器用な上に人見知りが激しく団体生活にうまく適応できない。そのため、ひと通り業務を覚えた頃には「辞めてほしい」と切り出される連続だった。
辛うじて今働いているが、実家暮らしでなければ食べていけない。結婚さえしなければ、自立できるだけの稼ぎが得られるかと考えていたが、女性が就くことを前提にした業務は、「扶養の範囲内」におさえる事業所は少なくない。

贅沢をしたいのではない。ただ、自立したいだけなのだ。望むことはただひとつだけ。
一億総活躍を唱える前に、女性が自立できる社会に変わって欲しい。夫がいなくても、実家に頼らなくても、ただ、ごく普通に生活していきたいだけである。