私は小さい頃から、文章を書くことが苦手であった。
小学生から高校生の時まで、通っていた学校では毎年夏休みに自由作文の宿題があった。自由に文を書けと言われても、何のことをどのように書けばよいのかわからない。何が正解かわからない。二学期の始業式の前日の夜は、文を書くという行為と嫌々向き合っていた。そんな私が最近文を書くことに対しての意識が変わったきっかけを話したい。
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今からちょうど一年前の冬、初めて恋人ができた。
小学校から高校まで女子校育ち。大学は絶対に共学に行くと意気込んでいたものの受験に失敗し、就職率が良いとされる女子大を選んだ。何とかして周りに女子しかいないこの状況を脱却しようと、男子もたくさん所属するインカレのサークルに入った。
サークルにいる男子たちには気に入られている方だと自負しつつも、誰からも告白されない。私って結構モテないんだな。そう思っていた矢先のことだった。
彼からの告白はあまりにも突然だった。
正直、彼のことはやけに気の合う友達として認識していた。私には、小学校5年生の時に同じクラスになってから今もずっと多くの時間を共有している仲良しの5人の友達がいる。私を含めた6人は、クラスが違っても休み時間になると自教室から出ては廊下でふざけ合うようなそんな仲である。人見知りの私にとって、その5人はもはや家族のような存在である。
彼と出会った時、私はどこか懐かしい気持ちがした。彼からはその5人と同じようなにおいを感じていた。6人とも別々の大学に進学し、自分の素を出せる新たな相手はなかなか見つからずにいたが、彼と一緒にいる時は不思議なほど素を出すことができていた。
彼からの告白の言葉は、「好きです。付き合ってください」などのいわゆる王道の告白ではなかった。引退してしまうサークルの先輩方ともっと仲良くなりたかったという後悔と先輩方との別れの事実に涙を流していた私に、彼はそっと駆け寄り、私の良いところを30分かけて丁寧に説明してくれた。
この人は、こんな私に慰めの言葉をくれて、本当に優しい人なんだな。そう思って聞いていたらいつの間にか、話が僕と付き合ってほしいという流れになっていた。
こんなに想いを言葉で伝えてくれる人に人生で初めて出会った。そう感じて、彼と付き合うことにした。人生初の交際であり、これが初恋でもあった。
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彼と付き合って初めて分かったことは、私が思った以上に気持ちを言葉にすることが苦手であるということだ。
彼は、毎日のように電話をかけてきては私に対する想いを伝えてくれた。しかし、私からは同じ熱量で想いを言葉にして伝えることは難しかった。
気持ちを口に出そうとすると、言葉がつかえた。これはきっと、女子校育ちで初めての交際だからだと自分に言い聞かせた。気持ちを伝えるのが苦手だということを認識し、そのことを彼に話したら、彼は「自分のペースでいいよ。そういうところも好きだから。」そう答えてくれた。
そんな中、彼の誕生日が近づいた。普段伝えることができていなかった自分の気持ちをなんとか伝えたいと手紙を書いた。私にとって、伝えたい自分の気持ちを言葉にして紙に書くことはびっくりするほど簡単だった。新たな発見だった。
プレゼントと一緒にその手紙を渡した。彼は、「プレゼントよりも何よりも、手紙が一番嬉しかった」と、とても喜んでくれた。
付き合って半年が過ぎた頃、彼に「半年経った感じがしないね」と言われた。その言葉に少し違和感と焦りを感じた私は、また手紙を書いて渡した。しかし、その二週間後、少し酔っ払った彼から電話で「手紙も嬉しいけど手紙じゃ伝わらない。あなたの口から言
葉が聞きたい」そう言われた。それから二ヶ月後、私たちは別れることになった。
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文章を書くということは、自分の気持ちを簡単に相手に伝えることができる。しかし、たとえ同じ言葉であっても、書いてある言葉を読むのと人の口から直接聞くのでは受け取り方が違うということも学んだ。
手紙だけでは伝わり切らないこともある。きっと私はこれからも誰かに手紙を書くだろう。
その時はどうか、私の気持ちが伝わりますように。