その友人に連絡を取ったのは、実に2年ぶりのことだった。中学、高校を共にした彼女とは、中学2年のとき同じクラスになったことがきっかけで仲良くなった。大人になってからは共通のグループで年1回遊ぶかどうか程度になっているが、顔を合わせれば何の隔たりもなく会話できる、貴重な友人の1人だ。
そんな彼女に、突如としてLINEしたのは、『星の王子さま』を初めて完読したことがきっかけだった。

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昔から絵本や児童書が好きな私は、社会人になってからもこまめにそれらを手にしていた。ここ1年ほどはとくに意識して、「気になっていたけど読まずに大人になってしまった本」を読む機会を作るようにしていた。そのうちの一冊が、『星の王子さま』だったのである。
とても、優しい物語だった。なぜ今まで完読に至らなかったのかと思うと同時に、今読むべきものだったのだと心が納得する作品だった。
ぶわっと溢れ出した感情をいつものようにツイートしようとして、やめた。多大な情報が流れるTwitterの海に、どんなマイナス反応があるかわからない、良い反応を期待しかねない環境に今の感情を放つのは、ひどくもったいないように思えたのである。
このきもちは、もっときれいで、大切に扱うべきもののはずだ! そんな思いが、私の胸をひたひたと満たしていた。
誰かにこの感動を共有したい。でも誰に?
そんなとき思い浮かんだのが、彼女の顔だった。

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久しぶりに会った友人は、すっかり長くなった髪を揺らして、とても嬉しそうに私を迎えてくれた。
「唐突な連絡だったのにありがとう」
「感動したよ私は!私にこんなエモい連絡をくれる友人がいるなんて、って!」
驚きと喜びの入り混じった顔で熱弁する友人を見て、私はこの子に連絡した理由がわかった気がした。人のなにげない感動を笑わない彼女のあり方が、私はとても好きなのだった。
そのスタンスは、彼女自身の生活にも通じるものだ。好きなものを取り入れて、日々を楽しむことが上手いなと思う。そのためか、ごはんをつつきながら交わす近況報告は、とてもカラフルなものに思えた。

「じつはタトゥーを入れることにしてね」
いたずらっぽく笑った彼女が見せてくれたのは、想像していたタトゥーよりもずっとファンシーでかわいらしいデザイン画だった。パーティーのクラッカーを模した図に、明るい色の指定が書き込まれている。おしゃれなシールと言われた方が納得できるようなかわいらしさだ。それにしても何でまたタトゥー?
「かわいいっしょ? 人生を楽しくすることを考えてね。例えば将来孫ができたときに、”俺のばあちゃん、腕にクラッカー入ってるんだぜ”って言われたらおもしろくない?」
「それはめちゃくちゃ良すぎる」
手元の飲み物が紙パックのリプトンからワインに変わっても、私たちはこんなにも素朴でやわらかい時間を過ごせるのだと、ひどく幸せな気分だった。

帰り道、次は春にピクニックに行きたいねと話をした。実現してもしなくても、あたたかい約束だと思った。
「次に会うときは私も髪色が派手になってるよ」
「えっ、めちゃくちゃ見たい」
そんな約束を繰り返して、いつかの未来、カラフルなクラッカーを腕に刻んだおばあちゃんの横で、私も一緒に笑っていたいのだ。