「『もう先輩なんですから』とか『入社して時間経つんですから』とか言い出す奴、すごい無理なんだよね(笑)」
友達は続ける。
「『お姉ちゃんなんだから』とか言えちゃう大人も無理。だから何?って。入社して時間が経とうが、人間苦手なものは苦手だし、お姉ちゃんだからって我慢しなきゃいけない理由にはならないのよ」

春は出会いと別れの季節だ。人間関係の変化は体と心に強いストレスを与える。そしてシンプルに、面倒臭い。この日、友達の口からは大量のストレスが発射された。

職場という場所では、何かを勘違いしているような人間を多く目にすることが出来る。
例えばそれは、この世に生まれた時期が、会社に入社したタイミングが、早いというだけで横柄な態度やマウントを取れる事が出来る者や、会社での自分のポジションに酔いたがる者など。
ここは動物園なのだ、これは映画のワンシーンなのだ、と思わなければ、まともに立ってはいられないクレイジーな場所なのだ。

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「こういう言い方は非難されるだろうけど、自分のメンタルを守る為に嫌いな人はいわゆるグレーゾーンなんだ、って事に勝手にさせて頂いてるよ。じゃなきゃ割り切れないし無理(笑)」

私は言葉を返さず、笑って時を待つ。
診断基準を満たさないことで発達障害と診断がされない"発達障害のグレーゾーン"。
彼女の言いたい事は分かるし、その考えを悪いとも思わない。
むしろ、頭の中でそう思うだけで自分の心の平穏を保つことができ、他人を直接傷つけることもないのであれば、それはとても良い解決方法のように思う。そして、これは言い方が違うだけで、相手を赤ちゃんや子供だと頭で変換する事と同義であると思う。要は、自分を神化するのだ。
私は彼女に関して、誰彼構わずこのような話をするタイプの人間ではないと感じている。職場の人間とは関係がなく、このような発言に否定をしない私、という存在を選択した上でこのテーマを語っている。真実は分からないが、私はそのことを勝手に良い方に解釈し、嬉しく思っている。

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「学生の頃は嫌いな奴を自作のデスノートに書きまくってたけど、今は嫌な事された日の詳細をノートに記録してストレス発散させてる。いつか何かの役に立つかもしれないし、自分守ってんの(笑)」

漫画が原作の「DEATH NOTE」は映画版、ドラマ版、舞台版、ハリウッド版など様々なバージョンが存在し、世界中にファンが多い作品だ。
彼女のこの話を聞き、私もデスノートを自作し、母親に怒られた痛い過去を思い出した。
だが、恐らくデスノートを自作したことのある人は多いと思う。

「私の会社、典型的な昭和体質なんだよね。こっちが理由を聞いてくる事すら想定してないんだろうけど、意味がないルールが多すぎる」

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辞めたらいいじゃん、と思う。が、言わない。
たくさんの文句がありながら、彼女が退職を選択しない理由は、給料、仕事内容、この職に就いている事を含め自分にブランド価値を感じている、この職に就いている自分を恋人や家族が評価し好いている、転職する事をプライドが許さない、隠れM体質、本質では文句を言っている自分が好き……etcといった所だろうか、と考えながら彼女の表情に合わせ相槌を打つ。

春は忙しいな、と思う。
花粉で辛いな、と思う。
友達の愚痴を聞きながら、訳もなく小学校の入学式を思い出し、こんな話をする年齢になってしまったのか、と何だかんだで嬉しく思う。
来年桜を見るまでに、今より自分を好きであれ、と願う。