4月。
社会人5年目になると同時に、私は大学へ入学する。
この先のキャリアアップにも、キャリアチェンジにも、もしかしたら誰の得にもならないかもしれない、そんな分野を学ぶために。

◎          ◎

いまから8年ほど前、私は都内の大学へ進学した。
興味のある領域だったし、卒論では賞もとった。4年間とても楽しかったので、後悔はない。ただ、私が1番好きで、何を差し置いてもやりたいことではなかった。
それに気づいたのは、社会人になってからだった。

高校生の私が大学を選んだ基準は、「就職先に困らないか」だった。
大学生の私が就職先を選んだ基準は、「多くの人の役に立つか」「安定した収入を得られるか」だった。すんなりと就活を終え、働き始めて4年。常に人が足りないと言われている業界で、同世代よりは稼げている方だと思う。大学は楽しかった。仕事も、大変だけれどやりがいがある。自分で稼いだお金で生活できていることが、誇らしい。ただ、常になにかが足りなくて、毎日が少しだけ空虚なのだ。

◎          ◎

「仕事を辞めて、大学院へ行くことにしたんだ」。友人に告げられた時、パズルのピースが隙間にぴたりと合った気がした。私もね、やりたいことがあったの。お金が稼げる分野ではないけれど。今までのキャリアは役に立たないけれど。死ぬまでに、絶対にやりたいことだったんだ。挑戦しても、いいんだ。それから半年後、私はとある大学へ願書を出した。

私が挑戦する分野で、成功する人はほんのひと握りだ。才能や感性も必要とされる。
キャリアを捨ててそこへ飛び込むつもりはない。私は私の生活に、それと向き合う時間を足したいのだ。今までの学びやキャリアはそのままに、挑戦し続ける土壌と栄養が欲しいのだ。

◎          ◎

リスキリングという言葉がある。社会人の学び直しや資格取得を指すことも多いが、もともとは、企業が社員の今後の新たな業務などで必要となる、スキルや知識を習得させることをいうらしい。だとしたら、私のこれはリスキリングではない。今の仕事と何の関連もないし、職場でそのスキルは私の付加価値にはならない。給料が増えることも、褒められることもない。それでも。

私の人生に、それが必要なのだ。食べるように寝るように、それでしか得られない力があるのだ。挑戦し続けることでしか手に入らない幸せがあるのだ。

この挑戦は、この先のキャリアアップにも、キャリアチェンジにもならない。人の役に立つことなど、ほとんどないように思う。
私の人生に、ほんの少しの支えをくれる。ただそれだけだ。それだけのことが、私にはずっと必要だった。

◎          ◎

大学は、通信とはいえたくさんの時間を費やすことになるだろう。常に勉強が必要で、残業も多い今の仕事と、両立するのは難しいかもしれない。新婚かつ妊娠適齢期の身で、子どもじみた夢を追うなんてと思われるかもしれない。でも、だからこそ。

これは私の宣言だ。やりたいことも、今の仕事も、稼ぎも、家族も友達も、なにひとつ諦めない。誰になにを言われようと、私は総取りすると、決めたのだ。

今日、大学から合格通知が届いた。欲張りな私は、まだ、歩きはじめたばかりだ。