高校を卒業した時、クラブの後輩15人の内、関わりの薄かった1年生を除いた12人が私に手紙を書いてくれた。メッセージカードいっぱいに小さな字で書いてくれた子、かわいい便箋2〜3枚にもわたって書いてくれた子。文章の長さも内容も、手紙のデザインも全部ばらばらで、でも、その内容を考えて、丁寧に書いてくれている姿を思い浮かべると、どれも泣きたいくらい嬉しかった。
手紙や寄せ書きをもらったことのある人なら多くの人がこの気持ちに共感してくれるはずだ。

でも、今回の本題は手紙ではない。人と関わる仕事、もっと言うなら営業をしている人に聞きたい。あなたはこの気持ちに共感してくれますか、と。

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「〇〇さん今お時間少しよろしいですか?」
営業でかけた電話。相手が「はい」と言ってくれた時、私は毎回運がいいと思う。

電話をかけたうち、繋がるのは約10%。繋がっても忙しいからと切られることもある。こちらは相手が「はい」と言ってくれて初めて私は土俵に立てるのだ。

土俵に立ったらまず相手の現状をヒアリングして、それからニーズに合った提案をする。調子がいい日なら15人とお話しして12人くらい次に繋げることができる。これは1日あたりに取れる件数の最高記録らしい。私はそんなとき、一つだけ抜きん出た棒グラフを眺めながら誇らしさより感謝の気持ちを噛み締めている。

私が1人とお話しするのは大体15分くらい。断られる分も合わせたら1日にトータルで225分。つまり3時間45分。

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普通ならあり得ないことだ。見も知らずの人から電話がかかってきて、自分にどんなメリットがあるかもわからない中で15分も自分の時間を割くなんて。しかも1人ではない。十数人の人が毎日私に15分をくれる。営業という仕事に囚われていたら当たり前に思えてしまうけれど、他人のために当たり前のように自分の時間を使える人と、私が電話をかけた時間と相手の都合のタイミングが合って、話す機会に恵まれているなんて、運がいい以外の何ものでもない。

最近気がついたのだ。この状況はまさに私が卒業式で手紙をもらった状況そのものだということに。だから私はこの恵まれた環境に感謝しなければならない。顔も知らない赤の他人の分、電話の相手の方が私に時間をくれるのが奇跡なくらいなのだから。

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本当のところ、実際はこんな綺麗に割り切ることなんてできない。ぶっきらぼうに電話を切られて、黒い気持ちが湧き上がるそうになることがある。「こういう電話信用してないんで」と言われて、ただの紙切れで思いがけず指を切った時のような痛みを感じることがある。

でも、それにいちいち傷ついていたらキリがない。それに不機嫌でめそめそした人の提案を飲もうと思う人はいない。傷つくメリットなんてない。だから私は運が良くて、それに感謝の念を抱いていると思いたいのだ。心を守るため。そして、営業成績のために。

いつか私がもっと経験を積んで、心の底から自分の運の良さを噛み締めて感謝できるようになるまで、私は卒業式でもらった色紙を思い出しながらこの仕事に取り組みたいと思う。