入社2ヶ月。先輩になった。しかも新人育成担当である。
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私がこの会社に入社した1ヶ月目。慣れない環境、慣れない仕事、いつまでも覚えられない既存メンバーの名前。ただ、がむしゃらに毎日突然入れられる新人研修や会議、そして業務をこなした。
すると1ヶ月が経つ頃には、この会社での今までの新人の月間レコードを達成したすごい新人になっていた。部署内でランキングが出されるから、会ったことのない人にも私の名前は知られていた。でも、ただでさえ人の顔と名前を覚えるのが苦手な私の方では、それが会ったことがある人か、初対面の人なのか判別がつかなかった。
もう1ヶ月が過ぎた。今度は部署内で一位になっていた。しかも、またレコードを達成していた。今度は新人の中ではなくこの部署の歴代の成績の中でだ。ランキングが発表されると、また周りがどよめいた。「バケモンが来た!」、「この会社の未来は明るい!」、「俺にもその極意を教えて!」。経験という名の自信がつく間もないまま、成績だけが一人歩きしていた。
怖かった。
いつまでこの調子で期待に答え続けられるだろう。たまたまこの2ヶ月が絶好調だっただけじゃないか。これが1年くらい継続できていたら自信を持てただろうに。
歳も勤務歴も私より上の先輩に、教えを乞われるのも居心地が悪かった。変なプライドもなく、素直に私を評価してくれ、向上心を持つ人たちに囲まれているのは本当に恵まれていると思う。でも、どうしてもやりにくくて仕方がない。だって、私こそ分からないことだらけなのだ。
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そして最近もっと怖いことを提案された。部署のマネージャーに、新人育成担当になってほしいと言われたのだ。なにがどうなったらこうなるのだ。おかしいだろう。私だって新人だ。最近入った新人と2ヶ月くらいしか変わらない。新人の中では古参な方という程度だ。
経験値なら上の人がごまんといる。しかも彼らだって私が知る限りでは仕事ができる人達だ。私はその人達に仕事を教わったのだから。
きっとありがたいことだ。年数に関係なく実力で判断する。
でも、もう少し私の自信が追いつくまで待ってほしい。少しわがままを言うなら、せめて自分を新人だと思わなくなるまで待ってほしい。せめて新しく入ってきた人に堂々と聞かれたことに答えられるようになるまでは待ってほしい。
先輩だなんて思わないで。まだ私は新人でいたい。別にすごいと尊敬されなくていい。ただ、頑張っているねとだけ言って欲しい。それだけ知っていてもらえれば私は報われるから。あまりに大きすぎる恵みと評価は自分の肩身を狭くする。
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けれど、同時に実際はそうもいかないということも私はわかっているつもりだ。一度進んでしまったら後退する道はない。ただ前に進むしかない。より良い成績を残すしかない。首を絞めないために現状維持することすらできない。成長しない人は快く思われない。現状維持でも風当たりはきっと強くなる。私に仕事を教えてくれていた人が、それで以前の会議で咎められていたから。
仕方ない。腹を括って私は「すごい新人」であるしかないようだ。そして、いずれは「すごい先輩」というレッテルを受け入れるのだ。まあ、それも悪くはないか。どうせお尻を叩かれないと私は最高のパフォーマンスは出せない性格のようだし。
さあ、いくか。
「お疲れ様です。今日からみなさんの育成担当になったなつめです。私も入社2ヶ月目の新人ですが、これからよろしくお願いします!」