自分が「先輩」だと自分で認めることができたのはいつだろう。2,3年先に入学した人たちがいきなり偉そうにし始めた中学校時代。私はバレーボール部に所属していた。私が入部した時の3年生はとても強い学年で、県大会に出場する程強かった。

全くの未経験のまま入部した私にとっては正しく雲の上のような存在。だから、3年生の言うことは絶対であったし、1つ上の私たちの教育係である2年生の言うことも絶対だった。先輩のために、先輩がやりやすいように、先輩が気持ちよく部活ができるように。

私たち1年生は、休日に部活がある日は部活が始まる30分前に集合してネットを張らなければならなかった。部活開始時刻までにネットを張れなければ怒られ、例え張れていたとしても、少しでも緩かったり間違っていたらやり直しをさせられ、充分な練習時間を確保できなかった事を私たちのせいにされていた。それでも1年間真面目にやっていたら多少はスキルは身についた。

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そんな私にも後輩ができた。

小学校の頃からバレーボールを習っていた子たちだった。他の子も運動神経が凄く良い子たちばかりで、もう私が教えるようなことなど無かった。もはや私の方が下手だった為、多少後輩に舐められていた。それでも精一杯できることはやってきたと思っていた。でも、自分の中では全然納得いかず、「先輩ってこんなだったかな」。とひどく落ち込んだりもしていた。そんな中学時代の経験から、当時の私にとって「先輩」は本当に怖いものだと思っていた。と同時にどこに行っても同じような怖い先輩ばかりだとも思っていた。

その考えが180度ひっくり返されたのが高校時代だ。高校は、かねてより行きたかった、自分のことを先輩も同期も誰一人知る人がいない東京の高校を受験した。まず入学式の時点で驚いた。教室に入ると、後ろにある黒板に私たちへの歓迎のメッセージが桜の形をした紙1枚1枚に書かれていた。読むと、雑に書かれたメッセージが1つも無いことに気付いた。

「入学おめでとう」という言葉は勿論のこと、その言葉以上に「この高校を選んでくれて有難う」「一緒にこの場所で勉強ができるのが本当に嬉しいよ」等のメッセージに溢れていて、なぜ見ず知らずの入学生にここまで丁寧な言葉を綴れるのだろう?と不思議に思ったくらいだ。

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その後入部した部活で出逢った先輩たちによって、入学式の時に抱えてた疑問が確信に変わった。自分が通う高校の先輩たちは皆、本当に後輩が大好きでたまらないのだと。出会う先輩出会う先輩、どの先輩も信じられない程優しかった。

特に部活の先輩は「分からないことがあったら何でも聞いてね。私たちのことは、24時間営業してるコンビニだと思ってくれて大丈夫」のように、後輩の私たちが特大安心する言葉を常日頃からかけてくれる先輩たちだった。そして、いざ分からないところを聞くと、1から10までしっかり教えてくれ、自分で考えて行動するべきところはあえて教えず考えさせてくれた。そんな先輩たちは試合でもしっかり強く、私は心から先輩たちを尊敬していた。

しかし、尊敬して先輩を追いかけるばかりでは自分の成長にはならないことに気付いた。確かに自分の持つスキルは上がっているかもしれない。けれど、自ら成長しようと思わなければ、本当の意味での成長ではないと気付いた。

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私にも後輩ができた。

初めて先輩の立場に、いざ自分が立った時、如何に先輩たちが凄かったのかを思い知らされた。後輩ができた喜びよりも、不安の方が大きかった。自分がやってきたことを後輩に教えるのがこんなに難しいなんて。というより、自分には後輩に教えられる程のスキルと経験なんて持ち合わせていないのではないか。

自分が教えるより、自分の先輩が今目の前に居る後輩に教えた方が絶対この後輩は伸びる。等、自分が先輩という立場であることに対する沢山のマイナスな感情がどんどんどんどん芽生えていった。

それでもそんなマイナスな感情に負けることなく「先輩」をやっていたある日。自分が不安な感情なく「先輩」をやれていることに気付いた。自分が今まで培ってきたスキルと経験を不安なく後輩に伝えられている自分に気が付いた。その日は、部活の全国大会の日だった。自分にとって最後の全国大会を自分が育ててきた後輩と共に立ったあの日。何の不安も無かった。今まで自分がやってきたことと共に、注げる全てを出し切った。

その姿を後輩に見せることが出来たし、あの場で後輩に伝えられる全てを伝えきることができた。「自分、先輩出来たじゃん」。やっと自分が「先輩」だと認めることができた。
中学校、高校とこのような経験をしてきた自分はこの春、大学2年生になる。

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私に後輩ができる。

今はまだ、不安の方が大きい。でも、高校時代の経験から、少し自分の「先輩」に自信が出てきた。「先輩」とは、後輩としっかりと向き合える人のことを指すと思う。

決していばったり、偉そうにして、後輩ができずに自分ができることを誇示するような人ではなく、真摯に後輩と接し、後輩ができないことがあればサポートをしたり、悩んでいることがあれば解決の糸口になることを一緒に探したりできるような人のことだと思う。

人は誰しも、「先輩」にも「後輩」にもなる。そのことを忘れず、「先輩」の立場になった暁には、自分が後輩の時、先輩からこんな言葉欲しかったな、だったり、先輩にこんなことして欲しかったな、だったりと思うようなことを後輩にするのが先輩としての役目だと考える。私は、そのような行動ができる先輩になりたい。