もし、このエッセイを読んで共感してくださる方がいらっしゃいましたら、今からでも親友になり夜通し語り合えると思うほど、正体が気になる感覚があります。私が勝手に「プールの更衣室現象」と呼んでいるそれは、私が小学生のときから体験しているなんとも言葉では言い表しにくい気持ちになる感覚です。

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私がそれを最初に感じたのは小学1年生の初夏、プールの授業のために更衣室で着替えをしているときでした。急に「寂しい」「心細い」「不安」「何かに包まりたい」「ママに会いたい」このような感情が入り混じった今すぐに泣きたいような感覚が襲ってきて、その間の数十秒は全く動けなくなってしまうのです。

思考も停止し、そのモヤっとした感覚が過ぎ去るのをただ待つことしかできなくなってしまいます。小学生のときはプールの更衣室で着替えをしているときに高確率でこれに遭遇し、動けなくなることに耐えていました。家族と一緒にプールに遊びに行き更衣室で着替えをしていてもなにも起こらないのに、学校のプールの更衣室で着替えをすると決まって現れるこの感覚が嫌いでした。

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もともと泳げないしプールが苦手な私は、中学や高校生活では学校のプールに入らなくても良い選択をし、しばらくこの感覚を味わうことはありませんでした。

しかし、大人になってからまた感じるようになりました。転勤のために実家を出て地方に引っ越し、それをきっかけに彼と同棲を始めた日、寝ようとしているときにやってきました。

「あ、きた」と思った瞬間に動けなくなりました。急にしゃべらなくなった私を、半身を起こして不思議そうに見ていた彼に人生で初めて人に「プールの更衣室現象」について話しました。彼には理解はしてもらえませんでしたし、私も言い知れない不思議な感情を適切に言葉で伝えられている気もしませんでした。

でも、彼の見解としては、心細くなったときにそれを感じるのではないかと言うのです。私は小学生の頃、毎朝泣いて喚いて学校に行きたがらない子でしたし、潔癖症気味なこともありプール自体あまり好きなものではありませんでした。それらに加えて「服を脱ぐ」という人を心細くさせる要素が合わさるとその感覚になるのではないかという説を立てました。

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そして今、どうして「プールの更衣室現象」がやってきたのかと考えたときに、彼の言う通り、初めての同棲に不安や心細さを感じていたことは事実です。実家を出発するときには年甲斐もなくうるうるしてしまいましたし、新居に着いて夕食の時にはなぜだか急に涙がでてきたりもしました。

「きっと今も心細いんだよ」と言った彼は続けて「またプールの更衣室現象がきたときは教えてね、思いっきりハグしてあげるからね」と言ってくれました。

それまではひとりで耐え忍んでいた「プールの更衣室現象」ですが、今では「あ、きたかも」というと決まって彼が近くに寄ってきてくれるようになり、人の温かさを感じながら耐える時間になりました。

この感覚についてネットで検索したこともあり、似たような経験をお持ちの方もいるようですが、これだ!とぴったり当てはまるようなものではなく、いまだにこれについて対処法があれば教えてほしいと思っています。

この感覚を感じた直後は本当に嫌な気持ちになる一方で、一緒にいてくれる彼の存在に改めて感謝する時間でもあります。いつかこの感覚を味わうことがなくなっても、同棲初日の夜に寄り添ってくれた彼のことは大切にしていきたいと思います。