「万里は、フリーで文章書いて生活すればいいのに」
これは中学時代からの友人からの言葉だ。彼女もフリーのイラストレーターをしているから、フリーランスの大変さを知ったうえで、真剣にこの言葉を言ってくれたのはわかる。
けれど、私は人生で一度も自分の文章で食べていこうと考えたことはなかった。
◎ ◎
公務員をやめてもうすぐ2年。
始めの1年弱は、何もしないで生活し自分の病気と向き合ったりやめたりしていた。
辛かったし、楽しかったし、私には必要な経験だったのかもと今では思う。
もちろん、健康でいられたらその方がよかったとは思うのだけど。
そして、あるとき元気になって、「暇だな」と思いなんとなく転職活動をして、今の会社へパートとして入った。
やっていることは正社員とほぼ変わらない。責任も大きいし、自己管理が難しいと思うときもある。最近だと業務が多くて残業も増えた。それでもこの仕事は嫌いではなかった。
ただ、パートなのに残業をすること自体がなんとなく心苦しくて、どうしようかと思っていた。どうしてだろう。もしかすると、公務員時代「税金で生活しているくせに」と言われたことがずっと胸にあるからかもしれない。残業のことをどうしても自分の力不足と捉えてしまう、少し歪んだ思考があるのだろう。でもいい、そんな自分がいるならば残業をしない工夫をすればいいのだ。ただ、正直今のままでは生活がどんどん苦しくなってしまう。物価の高騰は正直大打撃だった。そんなとき、会社側から「正社員を目指さないか」という話がでた。まだ様々な条件を確認している最中で、本当にそうなるとは決まってはいないものの、何かが少し進む気がした。
◎ ◎
そして、冒頭の言葉を思い出す。
公務員時代は、副業一切禁止だったため自作の本を書いて出すことも、エッセイを投稿することも考えられなかった。けど、昨年あたりから徐々にそれを始めてみて実に楽しいことを実感している。誰かに読んでもらうことも、自分の気持ちを言葉にすることもすべて。
中学時代の友人は、もしかしたら私よりも私のことを理解してくれているのかもしれない。
でも、なぜだか一歩踏み出せない。
自信がないのかもしれない。ハウトゥーがわからないかもしれない。
今目の前にあるチャンスを逃したくないからかもしれない。わからない、けれど、私はたぶん近いうちに今の会社の正社員にしてもらうのだろう。
悪いことではないのは確かだ。ただ一方で、文章を書く時間がぐんと減ってしまうのではという危惧も感じている。それは避けたい。それくらい私はきっと文章を書くことに魅了されているのだろう。
◎ ◎
まさか30手前になって、自分のキャリアについて迷うとは思わなかった。
無難な人生を生きて、誰かの指示に従って、特別昇任も希望せずに生きていく。
これが今まで考えていた私のキャリアプランだった。
けど、今はそこに「文章を書く時間」というのが確実に存在している。
今でもフリーで文章を書いて食べていく自信はないし、やっていけないと思っている。
けど、それでも誰かの指示に従いながら仕事をして、休みの前の日には発泡酒や日本酒を飲み、お気に入りのローテーブルから夜空を見上げて考えるのだろう。
「さて、今日は何を書こうか。」
なんて。
私の文章で何かが変わるわけではないと思う。私の生活が大きく変わるとも思えない。
それでも休日前の疲れ切った身体と頭で、こんなことを考える生き方でも悪くないかな。