私が異性愛者なので、異性愛を前提にしてしまうけれども、もちろん同性愛もどんな愛の形も素敵だと思っていて、その上で、あえてこう言いたい。
「悪女」という言葉から、男女関係を想像したりしないだろうか。
「悪女」と言えば、どんな女を思い浮かべるだろうか。
例えば、付き合っていた彼氏を略奪していった浮気相手の女。
「略奪愛」という言葉からは、男を奪われた女とその男との恋愛関係は、ただの遊びの恋で
男を奪った女とその男との恋愛関係が、まるで真正な愛であるかのようなイメージが思い浮かぶ。
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私は、ある女性に、略奪愛を成し遂げられてしまったことがある。
略奪愛を成し遂げてから、そろそろ彼らも1年の記念日を迎えるだろう。
私という彼女がいるのに一線を越えた初夏の日なのか。
勝手に付き合い始めて、二股状態になった日なのか。
私と別れたことで、やっと一人だけの彼女になれた残暑の日なのか。
果たして彼らは記念日の日付をどの日に決めたのかは知らないけれど、大体の予想はつく。
もし記念日を知ってしまったら、韓国ドラマのワンシーンのように、記念日デートを楽しむ2人の前に聡明な美女として登場して、「悪女」に水でもかけようかと、頭の中で想像してみることもある。
自分のことを棚に上げて他者を悪く言う資格はないけれど、それでも、「恋人」や「パートナー」というある種の信頼関係がある2人だけのフィールドに、当たり前のようにずかずかと足を踏み入れていくことはしない。略奪愛をするのは「悪い悪女」だと思う。
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反対に、「良い悪女」とは何だろう。
例えば、何人もの男性と同時にデートして、誰とも付き合わず、身体の関係だけを築く女。
セフレがいる女。元セフレと連絡を取り続ける女。
友達以上恋人未満を続けてしまう女。
世間からは「はしたない」「ちゃんとした方がいいよ」という声が聞こえてきそうだけれども、同意がある上での関係であれば、「自分の大切な人や誰かの大切な人を傷つけない」のであれば、それは「良い悪女」だと思う。
略奪愛を成し遂げる悪い悪女とは少し違う。
そもそも「悪女」と呼ぶけれど、例えば「女性をたぶらかして、気持ちをないがしろにして、しかも避妊もちゃんとしない」ような「悪い男性」を「悪男」と省略して呼べないのが残念だ。
浮気や不倫をする男性に向かって「この悪男が!」と叫びたいけれど、「悪男」という言葉が存在しないのは、やはり「男はそういう生き物。少しくらいの浮気は目をつむっておく」という固定観念が関係しているのかもしれない。
テレビニュースで、芸能人の不倫報道が出るたびに、私は「そんな男なんていらないじゃん。離婚すればいいのに」と思ってしまうのだけれど、「男だからね、仕方ないよね」と苦笑いするおじさま方の価値観が漂っている雰囲気が苦手だ。
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胸をはって言えるけど、私はそれなりに悪い女だ。
私は、良い悪女でいたい。悪い悪女には戻りたくない。
それは、1万キロ離れた遠距離恋愛をしていた頃の話。
物理的に距離が生まれると、自然と心の距離も出来てしまうのではないかと今では思う。
街中を歩いていて、ふと、恋人と一緒に食事をしたレストランや、思い出のある場所を通り過ぎても、「恋しい」と思う回数が減っていく。
「会いたい」と思いながら、どうしようもない恋心を抱えて、なぜかあふれてくる涙をそのままにして、布団を抱きしめながら寝る。そんな夜も次第に減っていく。
「好き」なはずなのに。
「この人が運命の人だと思ったのは私」なのに。
気持ちが冷めていくことを私自身も受け入れられなかった。
そんなとき、人肌恋しかった私は、好意を持ってくれていた男友達と身体の関係を持った。
たった1回の浮気で「悪い悪女」になった私は、確かに最低だと思う。
そんなときに「無理して純粋でいようとしなくていいんじゃない?」と言った、浮気相手に少しだけ感謝している。
「無理しなくていいんじゃない?もっと自分の気持ちに素直にいればいいんじゃない?」
こんな言葉、私を健全ではない恋愛に引きずり込む悪魔のささやきだ。
そう思った私は、結局その浮気相手を突き放して、音信不通にしてしまったのだけれど、
実はその出来事がきっかけで、開き直って、正々堂々真っ黒な悪女でいることにした。
浮気してしまった過去は消せないし、消したくもない。
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「正々堂々真っ黒な悪女」らしく、今の恋人には、昔セフレがいたことも、外国人と付き合っていたことも伝えた。
経験人数を聞かれたから正直に答えた。
あっさり答えると、「あっそっか」と受け流されるだけだった。
隠しているからこそ「悪い女」に見えてしまうのかもしれない。
過去も今も未来も、全部が私の一面。
色々な過去があってこそ、今は、一生懸命大切な人を愛せる。
だから、悪女でいるって最高。