それなりに良い子として生きてきた。
堅実な職につく両親から生まれ、3つ下の弟の手本になるお姉ちゃんとして、ありがたいことに大きなトラブルもなく育った。
荒れたクラスに所属していた学生時代、ほぼ全員の親が呼び出されて保護者会が開かれるレベルの大事件が一度だけあったのだが、私は何も関与していなかったため何食わぬ顔で帰宅した。私はとても良い子なのだ。
誰からも恨まれず誰も恨まず生きていけると思っていた。

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彼と出会ったのは秋の終わりだった。私は20歳を過ぎてなお恋愛が下手くそなままだった。そんな時に彼はふらりと人生に現れた。彼と出会って心がふわりと軽くなった。いろんなことを話してくれたし、話した。趣味のことから、小さい頃の話、過去の辛かった経験や、男性に話したことのないコンプレックスまで。こんなに自分をさらけ出せたのは初めてだった。私はプロの良い子だったから、マイナスな面は見えないように隠し、人に合わせて上手に振る舞うスキルを身につけていたのに。

気づいた時にはもう好きで、人をこんなに信じられたのは初めてで、そんな時に彼が告白してくれた。はじめての彼氏だった。ベタベタに可愛がられて、自信満々で溺愛されていた。

デートは毎回車で迎えに来てくれたし、お金はほぼ全て払ってくれていたし、忙しいのに毎日LINEをくれて、ツーショットもいっぱい撮っていた。本当に幸せで、彼の優しさに心から甘えられて、辛いことも素直に話せて、もうこんな素敵な人とは二度と巡り会えないんじゃないかと思うくらい楽しかった。

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だけど２ヶ月も経たずに彼は人生から消えた。一方的に別れを告げられ、その後まもなく音信不通になった。
私の何が悪かったのだろう。怒らせてしまったのかな。連絡手段も全て遮断され、彼がどこでどうしているか知るすべもなくなってしまった。彼がいなくなって、もう誰からも愛されないと思った。ありのままを見せたのがダメだったのかな。理想の彼女じゃなかったのかな。やっぱり良い子でいなきゃいけなかったんだ。反省して自己嫌悪に陥り、仕事もろくに手につかず、夜になるとバスタブに何度も涙を溶かした。

ふと悪い考えが浮かび、まさかと思ってインストールしたマッチングアプリで大好きだった笑顔を見つけた瞬間、心がキンと冷たくなって私の中の良い子は死んだ。
彼のオンラインを示すアイコンが光っていた。
私の人生の中で、あなたに出会えたのは奇跡だと思う。あなたは私のことなんてもう覚えていないだろうな。短い間だったけど、楽しい時間をくれてありがとう。私じゃない誰かと幸せでいてくれますように。
ヒロインみたいな良い子は、そんな風に相手の幸せを願うのかもしれない。

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どうやら私は全然良い子じゃなかったみたい。
虚しくも悲しくも悔しくもない。生理的な涙は出るけど、ピッタリ当てはまる感情が存在しない。
くだらなさすぎて泣きたくもない。
私の時間と優しさと可愛さがもったいない。
強いて言えば「呆れ」が割と近いけど、呆れてあげられるほど優しくもなかった。

数々の反省や自己嫌悪がバカみたいだ。ろくに話し合いもせず、自ら始めた関係を身勝手に切っていった不誠実な彼を心から軽蔑している。もう半年近くが過ぎたが、私は彼のことをいまだに呪っているし、できれば不幸になって欲しいとすら思っている。「彼を忘れて自分が幸せになることが唯一の復讐」なんて言葉も所詮は綺麗事だ。どす黒い感情を抱えたままこの先の幸せを追い求めたいと思うのもきっと自然なことだ。
堅実な職につく両親から生まれ、3つ下の弟の手本になるお姉ちゃんだから、決して「死ね」とは言わない。
一生どこか満たされずに生きろ。

お疲れ、さよなら。
私は自分の黒い部分まで含めて愛す。
悪い子のまま幸せになる。