長女というのは、なにかと不憫な立ち回りが多いと思う。例えば、「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」なんていうのは、有名だ。私自身は、この言葉を言われたことはないのだが、妹におもちゃを取られたときに「少し経てば、飽きるんだから…」と言われたことはいまだに私の根底に残った両親へ、そして、妹への怒りの塊である。

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四月、私の妹が高校に入学した。私たち姉妹はかなり、過保護に育てられてきた。私自身、自分が過保護にそだてられたとは思っていなかったのだが、様々な人たちの話を聞く限り、“かなり”箱入り娘だ。だが、妹は特に過保護に育てられた“メガ”箱入り娘である。バスに一人で乗ったことがないのである。16年間、駅に行くときにはすべて両親が車で送ってくれていたからである。同じ両親に育てられた私ですら、中学生の時には一人でバスに乗り、塾に行ったり、本屋まで行ったりしていた。入学式を終え、帰ってきた両親は私に言った。
「明日大学行くなら、一緒に行ってバスの乗り方教えてあげてくれない?」
いやいや、明日最終コマしか入ってないんですが…。
「明日、遅いから。ひとりで行けるでしょ」
「無理無理無理」
といったのは、妹だ。さっき、ティッシュ取ってと言ったときには両耳にイヤホンを入れて何も聞こえていませんけど、みたいな顔をしていたくせに。明日の朝、ひとこと言ってやろう。このままでは妹はダメになる。そう思った。

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いつもなら、13時ぐらいに行けば間に合うのに7時10分のバスに乗るために5時半に起きた。まだ寝ている妹。私は、お前のために早く起きてメイクやら準備をしているのだぞ、なんて思いながらアイラインをひいた。
6時半に起きてきた寝ぼけた妹と家を出る。青空が広がり、少しだけ肌寒い。少し離れたから、私は妹に向かって言った。
「厳しいことを言うようだけど、高校生になったんだから何でも親にやってもらうのはダメだよ。一人でできることを増やしていかないと…」
ボチャ、と私の肩から音がした。上を見ると、青い空に黒い影。カラスだ。私は、カラスの糞を落とされた。最悪である。マスクを通して匂ってくる異臭、お気に入りの服が汚れたこと、それはもちろん最悪である。ただそれは、最悪な日であるけれど、「私史上」というほどではない。何がそこまで私の精神をえぐり取ったか、偉そうに説教していた人間が一気に墜落し、「肩に糞を付けた説教臭い姉貴」になってしまったことである。悔しくてたまらない。「説教臭いなあ、あ、糞落とされてるから物理的にも臭い。なんつって(笑)」じゃない。衝撃を受けた私を妹は冷静にカバンからウエットティッシュを取り出して私の服を拭いた。
「あ、ダメだねこれ。着替えてきなよ」
そういって、妹はバス停へと向かって行った。

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次女というのは、生まれてすぐに絶対に勝てない姉、という存在が存在し続ける。このことが自分にはできないことを勝手に作ってしまうのかもしれないな、なんて思った。だけど、お父さん、お母さん、意外とうちの妹、強いみたいです。

次の日、1限から授業があった私は昨日に続いて一緒の時間に家を出た。妹はいつも違っていた。強い妹が頼もしく見えたのかって?違う。妹は、日傘をさしていた。
「お姉ちゃんみたいに、糞落とされたら困るでしょ?」

次女というのは、自分より前を走り続けている姉、という存在が生まれたころから存在し続ける。そのため、長女の失敗を横目で見ながら要領良くこなしていく性質があるのです。