4年前、3日間泣き続けたことがある。近しい人が死んだわけではない。大失恋をしたわけでもない。大変な病を発症したわけでもない。
…いや、ある意味では病だったのかもしれない。
というのも、私は当時、ガールズバーで働いていたのだが、20代半ばにして彼氏いない歴=年齢だった。男友達や、所謂セフレという存在もいたことがなかった。そして、当時の私は、そのことを病的な程に気にしていた。

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夜の仕事を経験するまでは、男性と親しくなったことがないことを何とも思ったことがなかったが、夜の仕事で毎日のように、それも一日に何度も、彼氏の有無、いない期間、男性経験の有無などを問われ、そして私の返答に対して決まって不思議そうなリアクションをされた。酷い時には揶揄われたり、家庭環境が悪かったのかとか、何か持病があるのかとか詮索されたりした。そんな日々を過ごしているうちに大きなコンプレックスになっていったのである。

そんな質問なんか適当に誤魔化しても良いし、嘘をついたって良いと今の私は思うけれど、当時の私は非常に生真面目で、聞かれたことに対して馬鹿正直に答えていたのである。

お客様に「俺ってえびふぃれお。ちゃんの恋愛対象に入るかな?」と訊かれたときなんかには、普通は「はい」と答えるべきなのだろうが、私はこういうときにも「私のタイプではないですね」などと正直に言ってた。嘘をつくのは今の私も苦手であるが、当時の私は本当に苦手だった。それでよく夜の仕事ができたものだと思うが、そんな私を素直で良いとか、変わってて面白いと言い、指名して通ってくれるお客様もいた。

そして、私はお酒がとても強いし、苦手なお酒もない。他の仕事では中々活きることがないであろう、そんな特性も存分に発揮できるので、楽しみながら働いていた。恥ずかしい話ではあるが、調子に乗って、私の天職なのでは?と思っていた時期もある。

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ある日の閑散日のこと。出勤してから数時間、1人も来客がなかったが、シーンとした店内にドアが開く音が聞こえた。入口の方に目をやると、常連客が1人。既にどこかで飲み、酔っ払っているようだった。態度には出ていなかったけれど、顔が赤くなっていたのでそう思った。彼は誰のことも指名しないが、よく来てはそこそこ長い時間滞在して飲んでいた。私もそれまでに何度も接客したことがある。面倒臭いところはあるけれど、悪い人ではないという印象を持っていた。年齢は30代後半で、背が高く、いつもお洒落で清潔感のある身なりをしていた。アパレル関係の仕事をしているらしい。女の子たちから「アパレル」と呼ばれていた。彼女が欲しい、結婚がしたい、子どもが欲しいとよく言っていたが、私がその店で働いていた約1年の間に、アパレルにパートナーがいたことは、私が知る限り一度もなかった。

お店のルールで、お客様とキャストが連絡先を交換することは禁止されていたが、常連客であれば連絡先を教えている女の子もいた。アパレルはお店の女の子ほぼ全員と連絡先を交換していたが、私はお客様と連絡先を交換することに抵抗があり、連絡先を訊かれる度に断っていた。

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何度も連絡先交換を断ったことに腹が立ったのか、たまたま虫の居所が悪いときに酔っ払っていたからなのか、その日は私に対してとても当たりが強かった。

「お前幾つだっけ?そうだよな、その年で彼氏いたことないとかキモいんだよ!」
「お前みたいなキモい奴と話したくないから勝手に喋ってて!キモいラジオが何か言ってるなぁと思いながら酒飲んでおくから!…え、早く!お前ラジオなんだから何か喋んないと!」
「子供欲しいって気もないの?後先なんか考えないで子供作ったらいいのに!産んだ瞬間、お前のガキ死ぬかもしれないでしょ?そういう可能性もあるのに後先考えて自信ないとか責任とかごちゃごちゃ言うの普通に頭おかしいよ!」

こんな調子で1時間ほど訳のわからない暴言を吐き続けられた。人格を否定されたこと、上手くかわせなかったこと、こんなしょうもないことで落ち込んでいること、とにかく色々なことが悔しくて、私は3日間泣き続けた。勿論、今の私だったらこんなことでは泣かない。落ち込みもしない。あの頃の私には、辛く悲しく、悔しかったのだろうけれど、無駄な涙だった。けれど、あの日暴言を吐き続けられたことも含め、世間知らずの私が世界を少し広げるには、あのお店での経験は凄く貴重だったと思っている。

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拝啓、あの頃の私。4年後のあなたは少し強くなっています。そして、信じられないと思うけれど、優しくて素敵な彼氏ができているよ。

拝啓、アパレルこと、あの日のクソ客。心を強くしてくれて、こんなネタまで作ってくれてありがとうございます。私は3年前に、人生で初めて好きな人ができて、その彼と付き合っています。お相手は彼氏いない歴=年齢でも受け入れてくれる器の大きな男性ですが、そういえば昔、彼氏いない歴=年齢というだけで暴言を吐いてくる男の人もいたなぁと、あなたのことを思い出しました。あれから4年、あなたはもう所帯を持っていることでしょう。どうぞ、奥様とお幸せに。私も幸せになります。