辛いと泣いている心たちへ。
特効薬を見つけました。

桜が舞う季節。ピンクに染まる歩道を黒いパンプスで歩く。
私の気持ちは、期待という感情が舞っている中を不安が一人歩きしているような感じだ。

◎          ◎

社会人一年目。緊張しながら配属された店のドアを開けた。
私が配属された先に同期がいなくて心細い思いもあったが、配属先の人間関係にとても恵まれたおかげで、だんだんと心細いという思いもなくなっていた。

「早く一人でも業務できるようにサポートするから一緒に頑張ろう」
そう言ってくれたのは私の教育係になった上司だ。私も上司の気持ちに早く応えられるようになりたいと思い、業務について勉強した。

新人は三ヶ月くらいで大体の業務ができるようになるらしいが、私は三ヶ月経っても役立たずな新人だった。去年入社した私より一歳年上の上司は、三ヶ月で大体の業務を一人でこなすようなっていたと言う。さらに他の配属先で働く同期は業務を任されるまでになったと耳にしていた。

◎          ◎

この頃から自分の無能さを痛感する毎日だった。役に立てない私に対して、変わらずサポートしてくれる上司への申し訳なさが日に日に増していく。私が出勤する意味があるのかとさえ思っていた。自分の存在自体が無価値のようだった。
心の泣き声に蓋をし、役立たずながらも業務に励んだ。そして入社二年目になる頃にやっと大体の業務を一人でこなせるようになった。

自分も少しは役に立てる様になったのではないかと思い始めていた。
だがその一方でなんとなくこの仕事は自分に向いていないのではないかという思いがうすらかすらしていた。クレーム対応、夜遅くまでの残業、休日中の業務連絡。

社会人ならみんなしていることだ。自分だけではない。自分だけが辛いと思ってはいけない。そう自分に言い聞かせる日々。形の分からない恐怖に押しつぶされそうになる夜。明日の朝が来なければいい。ずっと目を瞑っていたい。消えたいと心の底から願うような日もあった。

「とりあえず三年は働いた方がいい」
入社したてによく聞いた言葉。その言葉は私の気持ちを束縛する大きな物だった。

◎          ◎

「退職したいです」
入社二年目の冬。自分の口から出た退職の意思。目の前にいる上司は思いがけなかったことのようで驚いている。自分で言った事にも関わらず、私自身も驚いていた。私にとって上司に退職したい旨を伝えることは、とても勇気のいる事で何度も伝える機会を逃していた。だから自分の意思を上司に伝えられたあの瞬間は、私自身も思いがけないことだった。

思い返すと辞めたいという感情は、いつも心のどこかにいたと思う。
「仕事が向いていないからと辞めるのは逃げだ」
「三年働いてみないと何も分からないのに」
私が辞めたいという意思表示をする事によって、周りからどう思われるか、迷惑をかけるのではないか、と色々気にして怖くて行動できずにいたのだ。
そんな私が行動できたのは何か大きなきっかけがあったとかではない。ただ自分の気持ちに素直になっただけだった。

◎          ◎

この世から消えたいと思う日々。これ以上我慢できないという程に心は涙でいっぱいになっていた。今すぐ心の中に溢れる涙をどうにかしないといけない。そう感じた時、周りの人の目よりも自分の気持ちを見つめることを優先していたのだ。我慢は時として必要なこともあるだろう。

でも心が泣いているのを無視してまで我慢することはないのだ。心は他者に見えないから、心の変化に一番最初に気づいてあげられるのは自分自身。心が泣いてしまった時の一番の薬は素直さだと思う。自分の心に寄り添ってみてほしい。

◎          ◎

気が進まないことをやらなくてもいい。
嫌なことから逃げたっていい。
誰かに頼ったっていい。
始めたばかりだからとか、長く続けてることだからとか。そんなことも関係ない。
心が辛いのに無理して耐えるというのは素晴らしいことではない。
いつでも私たちは辛さを手放してあげることができる。そして手放す為の選択肢も沢山ある。
数分先のことも分からないのが人生なのだから、今の自分が想うことを大切にしたい。
自分の気持ちに素直に今を生きる人間でありたい。