この街で、私は随分若さにしがみ付いて生きてきた。
お気に入りの席に座り、しみじみとそう思った。
最近見つけた、私好みのカフェがある。お気に入りの席の近くの壁はガラス張りになっており、最寄駅とその周辺がぐるりとよく見渡せる。
一度目の転職を機に、この街に越してきたのは23歳の頃。私は当時、色々なことに焦っていた。
来年には干支が2周してしまう、もう若くない。それなのに、未だにやりたいことが見つからない。得意なこともない。新卒で就職した職場を、やりたいこととは違うというのが主な理由で辞めたくせに、転職先だって別に、この仕事がやりたい!!という熱意で選んだ場所ではない。私の学歴、職歴、希望の条件でマッチしたのがそこしかなかったのである。おまけに、友達も少なければ、彼氏だってできたことがない。貯金も満足にできていない。
そんな自分に焦りを感じながら生きていた私のことを、少し大人になった私はお気に入りの席から眺めた。
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少し目線を上げると、最寄駅直結のビルの中に料理教室が見える。この歳になって、作れる料理のレパートリーがこんなに少ないなんてと嘆き、あの料理教室へ通い始めた私がいた。
すぐ目の前の商業施設の入口付近。久しぶりに大学時代の同級生とそこで待ち合わせしたあの日。昔より膨よかになり、一瞬誰か分からなかったあの子が、結婚前提に付き合っている交際相手の家族に挨拶をしに行った話をしたとき、笑顔でおめでとうと言いつつ、好きな人ができたことすらない自分の現状に改めて焦りを感じた。まぁ、私、早生まれだし!だから私の方が1歳若いし!と自分に言い聞かせながら、目的地である自宅まで彼女と一緒に歩いた私がいた。
お金と、キラキラした女子になること、おじさんたちにチヤホヤされること、今までしたことがない経験を求め、仕事終わりに夜のお店へ出勤する私もいた。
この歳になって、やりたいこともやるべきことも分からないし、得意なこともないのだから、とりあえず何か勉強しなきゃと、休みの日に勉強道具を持ってカフェへ行く私も。
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今の私は、あの頃の私に言ってあげたい。干支が2周するからって何?!四捨五入したらハタチじゃん!若いって!仕事だって、きちんとお給料がもらえて休みがあって、残業ゼロで、人間関係だって悪くないでしょう?やりがいがなくたって良い職場だと思うよ。彼氏はそのうちできるし、いなくたって問題ない。友達って多ければ多いほど良いってものでもないし、2〜3年に1回会える友達が1人いるだけでも充分だよ。まだ若いんだし、貯金もそんなに気にしなくて良い。それより、心からときめくことにどんどん使いなさい!仕事の後と休みの日は休みなさい。そう言ってあげたい。
29歳になった私の楽しみは、読書と映画とピラティス。それからラーメンと、コーヒーとスイーツだ。時間を気にせず、ゆったりと読書をする時間が最高に幸せで、休みの日には最近見つけたお気に入りのカフェで、ガラス張りの壁越しにお日様を浴び、コーヒーとスイーツをいただきながら優雅に読書をしている。そのカフェの近くのスタジオでピラティスを習ったり、ピラティスの後には、そこから歩いて数分のラーメン屋さんへ行ったりもする。体に良いことをした後に、ドカンとカロリーを与えるのも悪くない。しばらくの間映画を観ていなかったが、最近、昔好きだったアニメの映画が上映されたので観に行った。それから映画を観に行くこともまた好きになった。
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今、理想の自分になれているかといえば、そうではない。まだまだ、理想には程遠い。
けれど、この歳だからとか、これができないからと言って焦る必要はないと思えるようになった。理想の自分への道のりも、焦らずゆっくりで良い。そして、楽しむことも忘れずに。
こう思えるようになったのは、おそらくジタバタもがきながらも、歳を重ねたからだろう。過去の私は、歳を重ねていくことが心底嫌だったし、怖かったけれど、歳を重ねたからこそ楽しめるようになったことが確実にあるのだ。
次の休みも、あのカフェへ行ってのんびりと読書をしよう。そういえば、期間限定のカフェラテが、次の休みの日で終了するはずだ。まだ飲んでいなかったので、そのカフェラテを飲もう。確か、予報では天気が良いとのことだった。きっと、日差しが気持ち良いだろう。すごく、すごく楽しみだ。