今日は火曜日だ。週末を迎えるまでにあと4日もある。
そういえば昨日、繁忙期かつ休み明けのせいか上司の機嫌悪かったなぁ。私は何もしていないのに「おはようございます」と挨拶をした時、仕事上で必要な質問をした時、無視されたことにだんだん腹が立ってくる。私よりも20歳以上年上なのに機嫌次第でいつだって身勝手な行動をとる大人げない上司と働くのは正直しんどい。
本当はずる休みしたい。どこか遠くへ飛んで行きたい。でも、今日は私が対応せねばならない仕事の案件が入っているから休むわけにはいかない。
気圧のせいか、頭痛もするし体もだるい。今日の私、いつもより元気ないなぁ。
心の中で独り言をつぶやきながら、お弁当の準備や化粧を済ませた私は大好きな自宅にしばしの別れを告げて家を出た。

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会社へ向かう電車の中で音楽を聴いてひとまず元気を出すことにする。
高橋優さんの「リーマンズロック」をイヤホンでエンドレスリピートしながら、目をつむって最寄り駅に着く間に心を整える。そしてあっという間に最寄り駅に到着。職場はすぐそこだ。
「リーマンズロック」の力強いサウンドのおかげで「憂鬱な今日だけど乗り越えてやろうじゃないか」という気持ちがふつふつと湧き上がる。
「おはようございます!」と、会うたび飴ちゃんをくれる清掃のおばちゃんと挨拶を交わすいつものルーティンのおかげで、先ほどの沸き上がった気持ちがさらに上向きになる。

4連ロッカーから制服を取り出し、私服から制服へと着替える。
ロッカー付属の小さな鏡に自分が映り、私自身と目が合う。
「大丈夫、大丈夫。今日も元気に頑張れる」
目を柿の種のような三日月にして、にーっと口角を上げて笑顔を作る。
「よし、今日も一日頑張ろう」と、自分自身に言い聞かせて更衣室を出た。

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鏡に映る自分に心の中で話しかけ、必ず鏡の前で笑顔を作るという習慣。
最初は理不尽な経験をしてどうしてもうまく笑えなかった自分をごまかし、「笑ってたらきっと後からいいこともついてくるだろう」と自分を励ますために始めたものだったけど、いつの間にかそれが毎日の習慣に溶け込んでいた。
自分自身に声をかけない日もあるけど、鏡の前でにーっと笑って笑顔は必ず作る。これだけは接客業のアルバイトを始めた頃からずっと続いているような気がする。鏡には日によって、笑顔を作らなくてもなんだかほくほくと嬉しそうにしている私が映っていたり、笑顔をどう頑張って作っても、小鼻がひくつき、口角も重くて笑えない。そんな自分に泣けてしまう日があったり、これまで鏡に向き合う中で自分が見てきた私の表情は毎日様々で、一日も同じ表情は無かったと思う。その表情の数だけ嬉しい日、苦しい日、そんな様々な日々を越えて生きてきた。

どうしても笑えない日は、人差し指で口角をぐいーっと上げて無理やり笑顔を作ってみる。ほっぺたの肉が不自然に持ち上げられた自分の顔が、なんだか可笑しくて。それまではどうやっても笑えなかったのにいつの間にか笑ってしまっていることもあった。自分で自分を笑わせてるってめちゃくちゃ変な話だ。

毎日自分の顔と向き合うことがいつの間にか習慣になっているから、鏡の中の自分のアイシャドウが綺麗に塗れていたり、マスカラが綺麗にセパレートされていたりすると「今日の私、なんかいい感じ…!!!」と、気分も上がっていつの間にか笑顔になれる。
その一方で、右ほほに吹き出物を見つけたり、目の下のクマが濃くなっているのを感じたりすると、「今の私、きっと無理がたたってるんだろうな」と、疲れてしまっている自分に自分で声をかけて慰める。

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いつの間にか毎日の一部を構成するものとなっていた、この習慣。
エネルギーがみなぎって「今日もやるぞー!」と決意に燃えている日の私のことも、
「しんどい、すでに帰りたい」と子供のように駄々をこねている私のことも、
仕事終わりに好きな人に会える予定のおかげでルンルンと上機嫌な私のことも、
上司からの理不尽な態度や言動に心が折れそうになっている私のことも、
一番近くで私のことを見ている私が、自分のことを励まして、慰め、褒めて、労って、反省して、笑顔を作ったからここまで走り続けることができた。

これから年を重ねてどんどん私を形成する顔や表情は変化していくだろう。
毎日顔を見ているのに、突然「あれ、こんな場所にほくろなんてあったっけ?」と見つけた途端に気になってしょうがないことが時々ある。
左ほほにできたシミがすでに気になってコンシーラーが手放せないし、唇にあったほくろもなんだか増えてきた気がする。現時点で唇に2つほくろがあるのだけど、時々チョコがついてるよ、なんて友達から間違われることもあるのでこれ以上は増えないでほしいなと切に願っている。私は喜怒哀楽が激しい方だから、もう少し年を重ねたら今はないけれど笑いジワなんてのもできるのだろうか。

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昔からの友人達には口を揃えて「もぴは子供の頃から(よくも悪くも)全然顔が変わらないよね~」と言われているけど、私はもっと自分の顔や表情がどんどん変化していけばいいなと思っている。

これからも年を重ねていく中で嬉しいことや悲しいこと、時には理不尽なことや例えようのない苦しみも経験すると思う。それらを全部ひっくるめて多くのことを経験しながらそこでの学びを吸収していきたい。そして様々な経験も年を重ねていく中での豊かな表情を作るための肥やしとして前向きに捉えて、私は凛と、そして逞しく生きていきたい。

また明日になれば、仕事が始まる。週末を迎えるまであと3日。
いつものように「リーマンズロック」を聴いて頑張るエンジンをかけて、清掃のおばちゃんと元気な挨拶を交わしてさらにパワーを充電する。そして自分で自分へエールを送って、笑顔の武装を身に纏い、大量の仕事と理不尽ばかりの上司たちに立ち向かうのだ。
“今”というこの瞬間も肥やしにしていつか素敵な女性になれるよう、私は今日も現実と戦って日々を生き抜いていこうと思う。